2013年2月10日日曜日

統計的サンプリング:25件のサンプル(3)

第1回目、第2回目と、「実施基準」の中の以下の記述についてとりあげました。

日常反復継続する取引について、統計上の二項分布を前提とすると、90%の信頼度を得るには、評価対象となる統制上の要点ごとに少なくとも25 件のサンプルが必要になる。

これは、25件サンプルを選んで、そのすべてについて部長決裁が得られていれば、概ねこの統制は有効であると統計的に判断できる」ということを意味している、と説明しました。上記の文章の「統制上の要点」とは、「部長決裁に関する統制が有効か否か」ということです。

今回は、上記文章の統計的意味についてもう少し触れたいと思います。


■ 標本(Sample)から母集団(Population)を推定する

標本を抽出するのは、標本自体に関心があるからではなく、(標本が含まれる)母集団の性質を知りたいからです。先の例では、①部長決裁が必要なすべての取引(母集団)について、②全取引(母集団)から標本(サンプル)を抽出し、③標本について部長決裁が行われていることを確認することで、④部長決裁が必要なすべての取引(母集団)について、統制が適切に機能している(部長決裁が確実に行われている)ことを知りたいわけです。

①~③はある意味機械的な作業ですが、④には判断が伴います。抽出した標本の中に1件も承認漏れ(逸脱:Deviation)がないからといって、母集団全体について統制が機能していると言えるのでしょうか? 


■ 統計的(仮説)検定 ☛ 否定することに意味がある
   

ここで、統計的仮説検定という概念が登場します。この仮説検定(以下、検定)は、母集団についてある仮説を立て、その仮説を検証する方法です。仮説を検証する流れとして、通常思い浮かぶのは以下のような流れでしょう。

  
   
【通常考えられる仮説検証の流れ】

仮 説:「 部長決裁が適切に行われている」という統制は有効に機能している。
                ⇓
検 討:サンプルを抽出し、実際に部長決裁が行われているどうか調べる。
                ⇓
判 断:上記の調査結果によって、仮説の正否を判断する。

ところが、統計学の仮説の立て方というのは独特なものがあって、上記とは少し違う流れを辿ります。すなわち、統計学では証明したいことの反対の仮説を立て、この仮説を否定するという発想をするのです。

今回、証明したいことは、「統制が有効である』ということですから、証明したいことの逆、すなわち、『統制は有効に機能していない』という仮説を立て、この仮説を否定することを考えます。統制が有効かどうかの基準は監査人の判断によりますが、ここでは、逸脱率(承認漏れの確率)が『9%以内か9%を超えるか』で判断するとします。すなわち、「『統制は有効に機能していない(=逸脱率は9%超である)』という仮説を否定することを検討します。何だか迂遠な感じがしますが、このあたりが統計学独特の考えというか、最初は馴染みにくい考え方だと思われます。

  
   
【統計学上の仮説検定の流れ】

仮 説: 統制は有効に機能していない。すなわち、逸脱率が9%を超えている。
          ⇓
検 討:サンプルの抽出と調査を行う。
            ⇓
判 断:仮説を否定(棄却)する(または、否定(棄却)しない。)  

つまり、逸脱率が9%を超えているという仮説は否定されてこそ意味を持つことになります。そのためには、仮に(上限)逸脱率を9%と仮定してその確率を計算し、その計算結果(確率)が十分に小さければ、最初に立てた仮説(逸脱率が9%超)が適切でなかったという論法になります。

例えば、(新)薬の効能の判定においても、この仮説検定の考え方が用いられます。すなわち、①新薬は効かない(又は従来の薬の効能と大差はない)という仮説(帰無仮説)を立て、②この帰無仮説が棄却できれば、③「新薬の効能はある(又は従来の薬よりも新薬の方が効能が高い)」という対立仮説を採択することができるという流れです。


 
■ 仮説の設定と統計上の誤り ☛ 所詮は確率の話なので、誤りは付き物

先に述べたように、検定では証明したいこと(対立仮説といいます。)に対して、否定したいこと帰無仮説といいます。)を仮説として立て、検証します。

● 対立仮説 H1(Alternative Hypothesis):統制は有効に機能している(=逸脱率が9%以下である。)
      ☛ この仮説は積極的に証明しない。

● 帰無仮説 H0(Null Hypothesis):統制は有効に機能していない(=逸脱率は9%超である。)
      ☛ この仮説を棄却しようと考える。

 
ここで、帰無仮説(H0)が棄却(否定されると)、間接的に対立仮説(H1)が証明されるということになります。しかし注意しなければならないのは、帰無仮説(H0)が棄却されたといっても、積極的に対立仮説(H1)が証明されたわけではないということです。「統制は有効に機能していない(逸脱率が9%超である)」という証拠は見つからなかったので、暫定的に、「統制は有効である」という仮説が採択されたに過ぎないのです。

一方、帰無仮説(統制は有効に機能していない)が棄却されなかった場合はどうなるでしょうか?この場合は、実は何も言えないに等しいのです。この辺りの話になると、込み入ってくるので詳細は割愛します。

さて、仮説を証明するといっても、標本から母集団の推測を行うわけですから誤差(Error)が生じます。要は、サンプルを沢山調べて、仮に1件の承認漏れがなかったとしても、全取引が同じように部長決裁を得ていることは断言できないわけです。

実際には、次のような2つの誤りが生じる可能性があります。

① 対立仮説(H1)が正しいのにこれを棄却して、帰無仮説(H0)を選択してしまう誤り
    = 本当は統制は有効に機能しているのに、統制が有効でないと判断してしまうこと

② 帰無仮説(H0)が正しいのにこれを棄却して、対立仮説(H1)を選択してしまう誤り
    = 本当は統制は有効に機能していないのに、統制が有効であると判断してしまうこと

①は「正しくないものを正しいと判断してしまう誤り」ですから、会計監査においては深刻な間違いになります。これは、監査の有効性に関するリスクとなります。

一方、②は「本当は正しいのに正しくないと判断してしまう誤り」です。監査においては①ほど深刻ではありませんが、(追加的な監査手続きが必要になるため)監査の効率性に関するリスクとなります。

少々長くなりましたが、今回はここまでとします。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年2月6日水曜日

相続税の調査統計(国税庁報道発表資料)

昨年11月、国税庁から相続税に関する(税務)調査実績に関する統計資料が公表されました。今回はその内容を簡単にご紹介したいと思います。


✓ 1年間の税務調査の実績

国税庁の平成23事務年度(平成23年7月から平成24年6月までの間)に行われた(相続税)税務調査の件数は13,787件、このうち申告漏れ等の非違件数(修正申告等が必要な件数)は11,159件で、非違割合は80.9%となっています。また、申告漏れ課税価格(総額)は3,993億円、1件当たり2,896万円となっています。これらの実績数値は前年数値とほとんど変わりはありません。

上記のデータから見ると、相続税の税務調査を受けると、約8割のケースで修正申告が発生し、平均で3,000万円位の申告漏れが指摘されていることが読み取れます。


✓ 申告漏れが指摘された3大相続財産 ☛ 現金・預貯金、有価証券、土地  

申告漏れ相続財産の内訳は、①現金・預貯金等1,426億円が最も多く、次に②有価証券631億円、③土地630億円の順番となっています。特に、現金預金の申告漏れが最も多く指摘されていますので、手許現金や預金口座の漏れがないように申告することが重要となります。


✓ 海外財産、無申告事案の調査強化

昨今の資産運用の国際化に対応して、海外資産の調査も重視してきています。年間調査件数は741件ほどですが、1件当たりの申告漏れ額は約6,500万円と全体平均(2,896万円)に比べて多額になっています。

また、自主的に申告した納税者との間の公平性を確保するため、相続税の無申告案件に対する調査にも力を入れています。特に、平成22事務年度から無申告に関する調査件数が急増しています。



  
今回の調査結果から読み取れること、必要な準備など

■ 申告漏れの原因は?

今回の調査結果を見る限り、どのような原因で申告漏れが生じているかは定かではありませんが、以下のような理由により申告漏れとされたケースが多いのではないかと推察されます。

 ● 現金・預貯金 ☛ 単純な失念、名義預金の存在
 
 
 ● 有価証券 ☛ 単純な失念、名義株の存在、非上場株式の評価の誤り
 
 
 ● 土地 ☛ 単純な失念(遠隔地の土地等)、特例等(小規模宅地や広大地など)の適用誤り

財産の申告漏れを極力少なくするためには、申告に際して相続財産について十分な棚卸を行う必要があります。相続直前に預金を引き出している場合、手許現金として申告財産に含めることも必要です。また、名義預金や名義株式については、事前にその有無を確認し、相続発生前までに(可能な限り)整理を行っておくことが必要です。

■ 無申告にならないように注意

前述のとおり、相続税無申告に対する調査も急増していますので、事前にある程度の試算をして、申告が必要か否かを検討しておく必要があります。

2013年2月3日日曜日

統計的サンプリング:25件のサンプル(2)

今回は、25件のサンプルに関連して、背景にある会計監査の前提について簡単に説明したいと思います。


■ 内部統制の信頼性

前回取り上げたとおり、会計監査は「試査」をベースにして行います。この「試査」の前提となるのが、「内部統制」といわれる会社の管理上の仕組みです。簡単にいえば、様々なチェック機能です。内部統制がしっかり機能している場合、会計処理の間違いはほとんどありません。というのも、たとえどこかで(誰かが)間違った処理をしたとしても、途中で他の人やシステムが気付いて、間違いが修正されるからです。

一方、内部統制が機能していない場合には、間違いが発生しても修正されずに放置される危険性が高くなります。その結果、財務諸表が間違っている危険性も高くなるわけです。

内部統制が機能していない ⇒ 間違いの発生・放置 ⇒ 財務諸表の信頼性が低い可能性

ということは、内部統制が弱い会社の場合、内部統制が強固な会社よりも、より注意深く監査を行う必要があるということになります。例えば、サンプル件数を増やすといったことが必要となります。これを試査範囲の拡大といいます。試査範囲を拡大すると、監査手続きが増え、作業工数(時間数)が増大することになります。このように、監査(試査)は内部統制(の信頼性)に大きな影響を受けることになります。


■ 内部統制の信頼性とサンプリング

監査の前提となる内部統制の信頼性(有効性)を検討するために、内部統制の運用状況のチェック(Test of Controls)を行うことになります。その手法の一つが統計的サンプリングです。


具体例を挙げて説明しましょう。例えば、『100万円以上の取引については、部長決裁が必要である』という会社のルールがあるとします。これは(内部)統制の一つですが、この統制が実際に機能しているかどうかをチェックする場合を考えます。もっとも、実際に監査でチェックするのはこのような単純な統制であるケースは少なく、あくまで説明のための例に過ぎません。

この統制が有効に機能しているか否かを判定するためには、100万円以上の(部長決裁が必要な)取引すべてについて、「本当に部長決裁があるかどうか」を調べばよいのですが、とても全取引件数を調査することはできません。

そこで、サンプルをランダムに選ぶという方法で、調査を行うことになります。サンプルを10件、20件、50件、100件、500件・・・と増やしていけば、より的確な判断ができるようになるでしょう。 検討すべき統制が1つだけで、かつ、統計的サンプリングだけで監査が終了すれば1,000件でも2,000件でもサンプルをとって検証するのも良いでしょう。しかし、他にも検討すべき(サンプリングが必要な)統制はいくつもあります。さらに、統計的サンプリングは所詮監査の中の一つの手続きに過ぎず、他にもやるべき監査手続が沢山あります。こうした中で、(部長決裁という)一つの統制チェックだけのためにサンプルを沢山集めて検証することは時間的にも不可能ですし、仮にできたとしてもあまり意味もありません。

かといって、2~3件サンプルを選んで、すべて部長決裁があったからといって、この統制は有効だと考えるのもちょっと問題がありそうです。そこで、多すぎず少なすぎず、必要十分なサンプル数は何件なのか、ということが重要になるわけです。

ということで、実施基準では、「25件サンプルを選んで、そのすべてについて部長決裁が得られていれば、概ねこの統制は機能していると統計上判断できる」ということを示しているのです。


■ 25件のサンプルとありがちな勘違い

25件のサンプルについてのありがちな勘違いを紹介します。

サンプルを25件選んで調査したところ、1件の承認漏れが見つかった。承認漏れの割合は4%(25件中1件)だから、「統制」は96%(100%-4%)有効に機能していると考えられる。したがって90%以上の信頼性をもって、「統制」が機能していると解釈した。

上記の解釈がなぜ誤りなのかについては、次回以後の説明で明らかになります。

今回はここまでとします。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年1月30日水曜日

相続税の申告の状況(国税庁報道発表資料)

昨年12月、国税庁から平成23年中(平成23年1月1日~平成23年12月31日)の相続税の申告状況が公表されていますので、内容をご紹介いたします。


✓ 被相続人(亡くなった方)の数と課税割合

被相続人数は約125万人、このうち相続税の課税対象となった被相続人数は約5万1千人でした。課税対象となった被相続人の数はここ10年程度で見ると増加傾向にあり、一方、被相続人の数(亡くなられた方)は、平成6年以後一貫して増加傾向にあります。





課税割合(実際に相続税が生じた件数の割合)は4.1%(5.1万人÷125万人)となっており、課税割合は前年より0.1ポイント低下しています。平成6年~12年頃までは課税割合が5%程度でしたが、ここ数年は、4.1%~4.2%の水準で推移しています。大体の目安として、被相続人の4%(100人中4人)程度が相続において、実際に相続税が生じているということになります。




✓ 課税価格と税額

課税価格は10兆7,299億円で、被相続人1人当たり2億872万円となっています。一方、税額は1兆2,520億円、被相続人1人当たり2,435万円となっています。


✓ 相続財産の金額の構成比

相続財産の構成割合は、土地46.0%、現金・預貯金等24.2%、有価証券13.0%の順となっています。土地の割合は依然として大きいですが、相続財産中に土地の占める割合は減少傾向にあり、一方で現金預金の割合は増加傾向にあることが分かります。



今回は以上です。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年1月26日土曜日

統計的サンプリング:25件のサンプル(1)

■ 25件のサンプル

公認会計士が会計監査を行う際に準拠すべきガイドラインとして、『財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準』(以下、実施基準)があります。この実施基準の中には、以下のような記述があります。

日常反復継続する取引について、統計上の二項分布を前提とすると、90%の信頼度を得るには、評価対象となる統制上の要点ごとに少なくとも25 件のサンプルが必要になる。

これは、母集団(Population)から一定の方法で標本(Sample)を抽出するサンプリング(Sampling)という手法を前提とした考え方です。上記は、サンプリングの中で統計的な手法を用いて行うサンプリング(統計的サンプリング)を前提としたものです。

今回から数回にわたって、25件のサンプルを題材に、統計的サンプリング(Statistical Sampling)について考えていきたい思います。


■ 統計的サンプリング(Statistical Sampling)

統計的サンプリング(Statistical Sampling)とは、母集団からサンプルを統計学的に適正な方法(無作為抽出等)で抽出し、(母集団の代わりに)サンプルを詳細に検討することによって、母集団の性質を推定する方法です。統計学的に適正な方法というのは、なかなか説明が難しいですが、一般的には、ランダムサンプリング(無作為抽出)をイメージすればよいと思われます。


会計監査では、通常、会社が行ったすべての取引を検討(監査)することはしませんし、そもそも時間的にもできません。そこで、取引の中から一定の取引を抽出して検討するという「試査」という方法が用いられます。会計監査(試査)では、統計的サンプリングの他、非統計的サンプリングやサンプリング以外の手法も幅広く利用します。統計的サンプリングというのは、試査の一つの手法といえます。


■ サンプル(Sample)とバイアス(Bias)

統計的サンプリングと非統計的サンプリングでは、サンプルを抽出する手法に違いはありますが、いずれも母集団の代表(Representative)としてのサンプルを選ぶという点では変わりありません。

母集団の代表という概念を説明するために、
監査から少し離れて、大学生の出身地に関するサンプルを考えます。A大学の学生の出身地を調査するため、毎朝、1限目の授業が始まる前に校門の前に30分間立って、出身地のアンケートを1週間とったとします。このようなサンプリング方法は適切でしょうか?

実は、このようなやり方は、サンプリング手法としては望ましくありません。なぜなら、1限目の授業を履修していない学生は、そもそもサンプル対象から除かれてしまっている可能性が高いからです。その結果、集めたサンプルが母集団の代表(Representative)となっておらず、相当偏ったものになっている可能性があります。このようなサンプリングの方法は、統計的サンプリングか非統計的サンプリングかという以前の問題として、望ましくないということになります。



このように、サンプリングの手法によっては、相当のバイアス(Bias)が生じるケースがあるので注意が必要です。このバイアスは、後に出てくる誤差(Error)とは本質的に異なるものです。統計的サンプリングは、誤差(Error)を完全に除去できませんが、サンプリングにおけるバイアスを除去する手法として使われます。


「なぜ25件なのか?」、「二項分布とか90%の信頼度とは何なのか?」ということについては、次回以降順次とりあげることとして、今回はここで終了とします。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年1月20日日曜日

概念フレームワーク(10)

最終回の今回は、資本と資本維持の概念を取り上げます。

フレームワークでは、「貨幣資本概念(Financial Concept of Capital)」と「実体資本概念(Physical Concept of Capital)」という2つの資本概念が示されています。

貨幣資本概念とは、資本を投下した現金又は投下した購買力とみなす考え方です。一方、実体資本概念は、資本を生産能力とみなす考え方です。どちらの資本概念が適切かは、財務諸表の利用者次第なのですが、財務諸表は貨幣表示が前提となりますので、貨幣表示された貨幣資本概念が重要です。したがって、以下は貨幣資本概念中心に説明します。

A financial concept of capital is adopted by most entities in preparing their financial statements. Under a financial concept of capital, such as invested money or invested purchasing power, capital is synonymous with the net assets or equity of the entity. Under a physical concept of capital, such as operating capability, capital is regarded as the productive capacity of the entity based on, for example, units of output per day. The failure to recognise such items is not rectified by disclosure of the accounting policies used nor by notes or explanatory material.

貨幣資本概念の根底にある考え方は、貨幣資本の維持です。この概念では、(期間)利益は、期末純資産の名目(又は貨幣)額と期首の純資産の名目(又は貨幣)額の差額(超過額)となりますが、この差額(超過額)をから、所有者からの出資と分配(配当)を除外した部分の金額となります(
以下のようなイメージになります。)

ちなみに、「名目」とは物価水準を考慮したという意味です。



Financial capital maintenance. Under this concept a profit is earned only if the financial (or money) amount of the net assets at the end of the period exceeds the financial (or money) amount of net assets at the beginning of the period, after excluding any distributions to, and contributions from, owners during the period. Financial capital maintenance can be measured in either nominal monetary units or units of constant purchasing power.

貨幣資本維持概念では、企業の資産及び負債の価格変動の影響を含めて(期間)利益が計算されます。したがって、資産保有益なども利益になります。

Under the concept of financial capital maintenance where capital is defined in terms of nominal monetary units, profit represents the increase in nominal money capital over the period. Thus, increases in the prices of assets held over the period, conventionally referred to as holding gains, are, conceptually, profits. They may not be recognised as such, however, until the assets are disposed of in an exchange transaction. When the concept of financial capital maintenance is defined in terms of constant purchasing power units, profit represents the increase in invested purchasing power over the period. Thus, only that part of the increase in the prices of assets that exceeds the increase in the general level of prices is regarded as profit. The rest of the increase is treated as a capital maintenance adjustment and, hence, as part of equity.

一方、実体資本の維持の概念は、貨幣価値でなく、物的生産能力に着目した概念です。2つの資本維持概念の差異は、資産や負債の価格変動の影響をどう考えるかという点にあります。実体資本の維持概念では、価格変動は利益にはならず、持分の一部である資本維持修正として扱われることとなります。

Under the concept of physical capital maintenance when capital is defined in terms of the physical productive capacity, profit represents the increase in that capital over the period. All price changes affecting the assets and liabilities of the entity are viewed as changes in the measurement of the physical productive capacity of the entity; hence, they are treated as capital maintenance adjustments that are part of equity and not as profit.

貨幣資本と実体資本の区別をまとめると以下のようになります。

 ● 貨幣資本概念:資本を貨幣単位(金額)で把握,価格変動は利益になる
 ● 実体資本概念:資本を生産能力(数量)で把握,価格変動は利益とならず資本の修正となる

上記2つの資本概念や前回説明した4つ測定基準(取得原価、再調達原価、正味実現可能価額、現在価値)の選択によって、財務諸表を作成する際に用いる会計モデルも決まってきます。基本的には、IFRSでは貨幣資本(維持)概念に則った考え方になっていると考えられますが、純粋に貨幣資本維持をベースとした財務諸表が作成されているわけではありません。純粋に貨幣資本維持概念を取り入れた財務諸表は、会社を清算する時の貸借対照表のようなもので、資産・負債はすべて時価(正味実現可能価額等)で測定されます。

しかし、IFRSでは(日本の会計基準においても)、財務諸表項目の多くは取得原価で計上されています。IFRSは時価主義的な色彩が濃い会計基準であることは確かですが、(巷でよく言われるような)「IFRSは時価主義会計である。」という決めつけは正しくありません。

The selection of the measurement bases and concept of capital maintenance will determine the accounting model used in the preparation of the financial statements. Different accounting models exhibit different degrees of relevance and reliability and, as in other areas, management must seek a balance between relevance and reliability. This Conceptual Framework is applicable to a range of accounting models and provides guidance on preparing and presenting the financial statements constructed under the chosen model. At the present time, it is not the intention of the Board to prescribe a particular model other than in exceptional circumstances, such as for those entities reporting in the currency of a hyperinflationary economy. This intention will, however, be reviewed in the light of world developments.


以上でIFRSの概念Frameworkの説明を終わります。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年1月13日日曜日

概念フレームワーク(9)

今回は、概念フレームワークにおける「測定(Measurement)」です。「測定」とは、財務諸表で認識され財務諸表に計上される構成要素(Element)の金額を決定するプロセスを意味します。

Measurement is the process of determining the monetary amounts at which the
elements of the financial statements are to be recognised and carried in the balance sheet and income statement.

Frameworkでは、測定の基準として、①取得原価、②現在原価、③実現可能価額、④現在価値といったものが挙げられています。
取得原価(Hisitorical Cost)とは、過去の支出額等を基準にしますので、客観性に優れかつ、測定も容易なので、最も広く用いられている測定基準といえます。

Historical cost. Assets are recorded at the amount of cash or cash equivalents paid or the fair value of the consideration given to acquire them at the time of their acquisition. Liabilities are recorded at the amount of proceeds received in exchange for the obligation, or in some circumstances (for example, income taxes), at the amounts of cash or cash equivalents expected to be paid to satisfy the liability in the normal course of business.the financial statements are to be recognised and carried in the balance sheet and income statement.

次は現在現価(Current Cost)です。例えば、同じ資産を現在新たに調達したらいくらになるかを見積もって、その金額(再調達価格)をもって測定基準とする方法です。例えば、棚卸資産の評価方法として「最終仕入原価法」がありますが、この方法などは、再調達原価による測定の例といえるでしょう。なお、再調達原価は理論的には重要な測定基準ですが、少なくとも会計実務ではあまり使われることはありません。

Current cost. Assets are carried at the amount of cash or cash equivalents that would have to be paid if the same or an equivalent asset was acquired currently. Liabilities are carried at the undiscounted amount of cash or cash equivalents that would be required to settle the obligation currently.

次は、実現可能(決済)価額(Realisable or Settlement Value)です。いわゆる正味実現可能価額(今、売ったらいくらになるか)のことです。IFRSの「公正価値(Fair Value)」の概念などはこの基準に関連していますので、会計上は非常に重要な測定基準といえます。

Realisable (settlement) value. Assets are carried at the amount of cash or cash equivalents that could currently be obtained by selling the asset in an orderly disposal. Liabilities are carried at their settlement values; that is, the undiscounted amounts of cash or cash equivalents expected to be paid to satisfy the liabilities in the normal course of business.

最後は現在価値(Present Value)です。ここでは上記3つの測定基準とは異なり、「貨幣の時間価値(Time Value of Money)」を考慮して割引計算を行います。現在価値を測定基準とした場合、資産は、将来の正味現金流入額の割引現在価値で計上されます。例えば、将来の現金流入見込額が100億円の場合、この価値を現在価値に置きなおして90億円と評価するような方法になります。ここでは、将来の価値を現在の価値に割引くという計算(割引計算)を行うことがポイントです。経済学やファイナンスの世界では、以前から広く用いられている概念ですが、この概念が会計の世界にも取り込まれています。会計の世界では、現在価値の概念は比較的新しい概念といえます。

Present value. Assets are carried at the present discounted value of the future net cash inflows that the item is expected to generate in the normal course of business. Liabilities are carried at the present discounted value of the future net cash outflows that are expected to be required to settle the liabilities in the normal course of business.

 今回は以上です。次回はいよいよ最終回。資本概念を扱います。



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