2013年2月3日日曜日

統計的サンプリング:25件のサンプル(2)

今回は、25件のサンプルに関連して、背景にある会計監査の前提について簡単に説明したいと思います。


■ 内部統制の信頼性

前回取り上げたとおり、会計監査は「試査」をベースにして行います。この「試査」の前提となるのが、「内部統制」といわれる会社の管理上の仕組みです。簡単にいえば、様々なチェック機能です。内部統制がしっかり機能している場合、会計処理の間違いはほとんどありません。というのも、たとえどこかで(誰かが)間違った処理をしたとしても、途中で他の人やシステムが気付いて、間違いが修正されるからです。

一方、内部統制が機能していない場合には、間違いが発生しても修正されずに放置される危険性が高くなります。その結果、財務諸表が間違っている危険性も高くなるわけです。

内部統制が機能していない ⇒ 間違いの発生・放置 ⇒ 財務諸表の信頼性が低い可能性

ということは、内部統制が弱い会社の場合、内部統制が強固な会社よりも、より注意深く監査を行う必要があるということになります。例えば、サンプル件数を増やすといったことが必要となります。これを試査範囲の拡大といいます。試査範囲を拡大すると、監査手続きが増え、作業工数(時間数)が増大することになります。このように、監査(試査)は内部統制(の信頼性)に大きな影響を受けることになります。


■ 内部統制の信頼性とサンプリング

監査の前提となる内部統制の信頼性(有効性)を検討するために、内部統制の運用状況のチェック(Test of Controls)を行うことになります。その手法の一つが統計的サンプリングです。


具体例を挙げて説明しましょう。例えば、『100万円以上の取引については、部長決裁が必要である』という会社のルールがあるとします。これは(内部)統制の一つですが、この統制が実際に機能しているかどうかをチェックする場合を考えます。もっとも、実際に監査でチェックするのはこのような単純な統制であるケースは少なく、あくまで説明のための例に過ぎません。

この統制が有効に機能しているか否かを判定するためには、100万円以上の(部長決裁が必要な)取引すべてについて、「本当に部長決裁があるかどうか」を調べばよいのですが、とても全取引件数を調査することはできません。

そこで、サンプルをランダムに選ぶという方法で、調査を行うことになります。サンプルを10件、20件、50件、100件、500件・・・と増やしていけば、より的確な判断ができるようになるでしょう。 検討すべき統制が1つだけで、かつ、統計的サンプリングだけで監査が終了すれば1,000件でも2,000件でもサンプルをとって検証するのも良いでしょう。しかし、他にも検討すべき(サンプリングが必要な)統制はいくつもあります。さらに、統計的サンプリングは所詮監査の中の一つの手続きに過ぎず、他にもやるべき監査手続が沢山あります。こうした中で、(部長決裁という)一つの統制チェックだけのためにサンプルを沢山集めて検証することは時間的にも不可能ですし、仮にできたとしてもあまり意味もありません。

かといって、2~3件サンプルを選んで、すべて部長決裁があったからといって、この統制は有効だと考えるのもちょっと問題がありそうです。そこで、多すぎず少なすぎず、必要十分なサンプル数は何件なのか、ということが重要になるわけです。

ということで、実施基準では、「25件サンプルを選んで、そのすべてについて部長決裁が得られていれば、概ねこの統制は機能していると統計上判断できる」ということを示しているのです。


■ 25件のサンプルとありがちな勘違い

25件のサンプルについてのありがちな勘違いを紹介します。

サンプルを25件選んで調査したところ、1件の承認漏れが見つかった。承認漏れの割合は4%(25件中1件)だから、「統制」は96%(100%-4%)有効に機能していると考えられる。したがって90%以上の信頼性をもって、「統制」が機能していると解釈した。

上記の解釈がなぜ誤りなのかについては、次回以後の説明で明らかになります。

今回はここまでとします。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

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