2013年1月30日水曜日

相続税の申告の状況(国税庁報道発表資料)

昨年12月、国税庁から平成23年中(平成23年1月1日~平成23年12月31日)の相続税の申告状況が公表されていますので、内容をご紹介いたします。


✓ 被相続人(亡くなった方)の数と課税割合

被相続人数は約125万人、このうち相続税の課税対象となった被相続人数は約5万1千人でした。課税対象となった被相続人の数はここ10年程度で見ると増加傾向にあり、一方、被相続人の数(亡くなられた方)は、平成6年以後一貫して増加傾向にあります。





課税割合(実際に相続税が生じた件数の割合)は4.1%(5.1万人÷125万人)となっており、課税割合は前年より0.1ポイント低下しています。平成6年~12年頃までは課税割合が5%程度でしたが、ここ数年は、4.1%~4.2%の水準で推移しています。大体の目安として、被相続人の4%(100人中4人)程度が相続において、実際に相続税が生じているということになります。




✓ 課税価格と税額

課税価格は10兆7,299億円で、被相続人1人当たり2億872万円となっています。一方、税額は1兆2,520億円、被相続人1人当たり2,435万円となっています。


✓ 相続財産の金額の構成比

相続財産の構成割合は、土地46.0%、現金・預貯金等24.2%、有価証券13.0%の順となっています。土地の割合は依然として大きいですが、相続財産中に土地の占める割合は減少傾向にあり、一方で現金預金の割合は増加傾向にあることが分かります。



今回は以上です。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年1月26日土曜日

統計的サンプリング:25件のサンプル(1)

■ 25件のサンプル

公認会計士が会計監査を行う際に準拠すべきガイドラインとして、『財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準』(以下、実施基準)があります。この実施基準の中には、以下のような記述があります。

日常反復継続する取引について、統計上の二項分布を前提とすると、90%の信頼度を得るには、評価対象となる統制上の要点ごとに少なくとも25 件のサンプルが必要になる。

これは、母集団(Population)から一定の方法で標本(Sample)を抽出するサンプリング(Sampling)という手法を前提とした考え方です。上記は、サンプリングの中で統計的な手法を用いて行うサンプリング(統計的サンプリング)を前提としたものです。

今回から数回にわたって、25件のサンプルを題材に、統計的サンプリング(Statistical Sampling)について考えていきたい思います。


■ 統計的サンプリング(Statistical Sampling)

統計的サンプリング(Statistical Sampling)とは、母集団からサンプルを統計学的に適正な方法(無作為抽出等)で抽出し、(母集団の代わりに)サンプルを詳細に検討することによって、母集団の性質を推定する方法です。統計学的に適正な方法というのは、なかなか説明が難しいですが、一般的には、ランダムサンプリング(無作為抽出)をイメージすればよいと思われます。


会計監査では、通常、会社が行ったすべての取引を検討(監査)することはしませんし、そもそも時間的にもできません。そこで、取引の中から一定の取引を抽出して検討するという「試査」という方法が用いられます。会計監査(試査)では、統計的サンプリングの他、非統計的サンプリングやサンプリング以外の手法も幅広く利用します。統計的サンプリングというのは、試査の一つの手法といえます。


■ サンプル(Sample)とバイアス(Bias)

統計的サンプリングと非統計的サンプリングでは、サンプルを抽出する手法に違いはありますが、いずれも母集団の代表(Representative)としてのサンプルを選ぶという点では変わりありません。

母集団の代表という概念を説明するために、
監査から少し離れて、大学生の出身地に関するサンプルを考えます。A大学の学生の出身地を調査するため、毎朝、1限目の授業が始まる前に校門の前に30分間立って、出身地のアンケートを1週間とったとします。このようなサンプリング方法は適切でしょうか?

実は、このようなやり方は、サンプリング手法としては望ましくありません。なぜなら、1限目の授業を履修していない学生は、そもそもサンプル対象から除かれてしまっている可能性が高いからです。その結果、集めたサンプルが母集団の代表(Representative)となっておらず、相当偏ったものになっている可能性があります。このようなサンプリングの方法は、統計的サンプリングか非統計的サンプリングかという以前の問題として、望ましくないということになります。



このように、サンプリングの手法によっては、相当のバイアス(Bias)が生じるケースがあるので注意が必要です。このバイアスは、後に出てくる誤差(Error)とは本質的に異なるものです。統計的サンプリングは、誤差(Error)を完全に除去できませんが、サンプリングにおけるバイアスを除去する手法として使われます。


「なぜ25件なのか?」、「二項分布とか90%の信頼度とは何なのか?」ということについては、次回以降順次とりあげることとして、今回はここで終了とします。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年1月20日日曜日

概念フレームワーク(10)

最終回の今回は、資本と資本維持の概念を取り上げます。

フレームワークでは、「貨幣資本概念(Financial Concept of Capital)」と「実体資本概念(Physical Concept of Capital)」という2つの資本概念が示されています。

貨幣資本概念とは、資本を投下した現金又は投下した購買力とみなす考え方です。一方、実体資本概念は、資本を生産能力とみなす考え方です。どちらの資本概念が適切かは、財務諸表の利用者次第なのですが、財務諸表は貨幣表示が前提となりますので、貨幣表示された貨幣資本概念が重要です。したがって、以下は貨幣資本概念中心に説明します。

A financial concept of capital is adopted by most entities in preparing their financial statements. Under a financial concept of capital, such as invested money or invested purchasing power, capital is synonymous with the net assets or equity of the entity. Under a physical concept of capital, such as operating capability, capital is regarded as the productive capacity of the entity based on, for example, units of output per day. The failure to recognise such items is not rectified by disclosure of the accounting policies used nor by notes or explanatory material.

貨幣資本概念の根底にある考え方は、貨幣資本の維持です。この概念では、(期間)利益は、期末純資産の名目(又は貨幣)額と期首の純資産の名目(又は貨幣)額の差額(超過額)となりますが、この差額(超過額)をから、所有者からの出資と分配(配当)を除外した部分の金額となります(
以下のようなイメージになります。)

ちなみに、「名目」とは物価水準を考慮したという意味です。



Financial capital maintenance. Under this concept a profit is earned only if the financial (or money) amount of the net assets at the end of the period exceeds the financial (or money) amount of net assets at the beginning of the period, after excluding any distributions to, and contributions from, owners during the period. Financial capital maintenance can be measured in either nominal monetary units or units of constant purchasing power.

貨幣資本維持概念では、企業の資産及び負債の価格変動の影響を含めて(期間)利益が計算されます。したがって、資産保有益なども利益になります。

Under the concept of financial capital maintenance where capital is defined in terms of nominal monetary units, profit represents the increase in nominal money capital over the period. Thus, increases in the prices of assets held over the period, conventionally referred to as holding gains, are, conceptually, profits. They may not be recognised as such, however, until the assets are disposed of in an exchange transaction. When the concept of financial capital maintenance is defined in terms of constant purchasing power units, profit represents the increase in invested purchasing power over the period. Thus, only that part of the increase in the prices of assets that exceeds the increase in the general level of prices is regarded as profit. The rest of the increase is treated as a capital maintenance adjustment and, hence, as part of equity.

一方、実体資本の維持の概念は、貨幣価値でなく、物的生産能力に着目した概念です。2つの資本維持概念の差異は、資産や負債の価格変動の影響をどう考えるかという点にあります。実体資本の維持概念では、価格変動は利益にはならず、持分の一部である資本維持修正として扱われることとなります。

Under the concept of physical capital maintenance when capital is defined in terms of the physical productive capacity, profit represents the increase in that capital over the period. All price changes affecting the assets and liabilities of the entity are viewed as changes in the measurement of the physical productive capacity of the entity; hence, they are treated as capital maintenance adjustments that are part of equity and not as profit.

貨幣資本と実体資本の区別をまとめると以下のようになります。

 ● 貨幣資本概念:資本を貨幣単位(金額)で把握,価格変動は利益になる
 ● 実体資本概念:資本を生産能力(数量)で把握,価格変動は利益とならず資本の修正となる

上記2つの資本概念や前回説明した4つ測定基準(取得原価、再調達原価、正味実現可能価額、現在価値)の選択によって、財務諸表を作成する際に用いる会計モデルも決まってきます。基本的には、IFRSでは貨幣資本(維持)概念に則った考え方になっていると考えられますが、純粋に貨幣資本維持をベースとした財務諸表が作成されているわけではありません。純粋に貨幣資本維持概念を取り入れた財務諸表は、会社を清算する時の貸借対照表のようなもので、資産・負債はすべて時価(正味実現可能価額等)で測定されます。

しかし、IFRSでは(日本の会計基準においても)、財務諸表項目の多くは取得原価で計上されています。IFRSは時価主義的な色彩が濃い会計基準であることは確かですが、(巷でよく言われるような)「IFRSは時価主義会計である。」という決めつけは正しくありません。

The selection of the measurement bases and concept of capital maintenance will determine the accounting model used in the preparation of the financial statements. Different accounting models exhibit different degrees of relevance and reliability and, as in other areas, management must seek a balance between relevance and reliability. This Conceptual Framework is applicable to a range of accounting models and provides guidance on preparing and presenting the financial statements constructed under the chosen model. At the present time, it is not the intention of the Board to prescribe a particular model other than in exceptional circumstances, such as for those entities reporting in the currency of a hyperinflationary economy. This intention will, however, be reviewed in the light of world developments.


以上でIFRSの概念Frameworkの説明を終わります。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年1月13日日曜日

概念フレームワーク(9)

今回は、概念フレームワークにおける「測定(Measurement)」です。「測定」とは、財務諸表で認識され財務諸表に計上される構成要素(Element)の金額を決定するプロセスを意味します。

Measurement is the process of determining the monetary amounts at which the
elements of the financial statements are to be recognised and carried in the balance sheet and income statement.

Frameworkでは、測定の基準として、①取得原価、②現在原価、③実現可能価額、④現在価値といったものが挙げられています。
取得原価(Hisitorical Cost)とは、過去の支出額等を基準にしますので、客観性に優れかつ、測定も容易なので、最も広く用いられている測定基準といえます。

Historical cost. Assets are recorded at the amount of cash or cash equivalents paid or the fair value of the consideration given to acquire them at the time of their acquisition. Liabilities are recorded at the amount of proceeds received in exchange for the obligation, or in some circumstances (for example, income taxes), at the amounts of cash or cash equivalents expected to be paid to satisfy the liability in the normal course of business.the financial statements are to be recognised and carried in the balance sheet and income statement.

次は現在現価(Current Cost)です。例えば、同じ資産を現在新たに調達したらいくらになるかを見積もって、その金額(再調達価格)をもって測定基準とする方法です。例えば、棚卸資産の評価方法として「最終仕入原価法」がありますが、この方法などは、再調達原価による測定の例といえるでしょう。なお、再調達原価は理論的には重要な測定基準ですが、少なくとも会計実務ではあまり使われることはありません。

Current cost. Assets are carried at the amount of cash or cash equivalents that would have to be paid if the same or an equivalent asset was acquired currently. Liabilities are carried at the undiscounted amount of cash or cash equivalents that would be required to settle the obligation currently.

次は、実現可能(決済)価額(Realisable or Settlement Value)です。いわゆる正味実現可能価額(今、売ったらいくらになるか)のことです。IFRSの「公正価値(Fair Value)」の概念などはこの基準に関連していますので、会計上は非常に重要な測定基準といえます。

Realisable (settlement) value. Assets are carried at the amount of cash or cash equivalents that could currently be obtained by selling the asset in an orderly disposal. Liabilities are carried at their settlement values; that is, the undiscounted amounts of cash or cash equivalents expected to be paid to satisfy the liabilities in the normal course of business.

最後は現在価値(Present Value)です。ここでは上記3つの測定基準とは異なり、「貨幣の時間価値(Time Value of Money)」を考慮して割引計算を行います。現在価値を測定基準とした場合、資産は、将来の正味現金流入額の割引現在価値で計上されます。例えば、将来の現金流入見込額が100億円の場合、この価値を現在価値に置きなおして90億円と評価するような方法になります。ここでは、将来の価値を現在の価値に割引くという計算(割引計算)を行うことがポイントです。経済学やファイナンスの世界では、以前から広く用いられている概念ですが、この概念が会計の世界にも取り込まれています。会計の世界では、現在価値の概念は比較的新しい概念といえます。

Present value. Assets are carried at the present discounted value of the future net cash inflows that the item is expected to generate in the normal course of business. Liabilities are carried at the present discounted value of the future net cash outflows that are expected to be required to settle the liabilities in the normal course of business.

 今回は以上です。次回はいよいよ最終回。資本概念を扱います。



清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年1月8日火曜日

概念フレームワーク(8)

今回は、概念フレームワークの山場である「認識(Recognition)」です。

概念フレームワークにおける「認識」は、以下のように定義されています。

Recognition is the process of incorporating in the balance sheet or income statement an item that meets the definition of an element and satisfies the criteria for recognition set out in paragraph 4.38. It involves the depiction of the item in words and by a monetary amount and the inclusion of that amount in the balance sheet or income statement totals. Items that satisfy the recognition criteria should be recognised in the balance sheet or income statement.
The failure to recognise such items is not rectified by disclosure of the accounting policies used nor by notes or explanatory material.

認識(Recognition)とは、前回説明した収益・費用・資産・費用といった構成要素(element)の定義を満たし、かつ、一定の認識規準を満たす項目について、これを貸借対照表や損益計算書に組み入れることを意味します。

そして、一定の認識基準は、段落4.38で以下のように記述されています。

An item that meets the definition of an element should be recognised if:
(a) it is probable that any future economic benefit associated with the item will flow to or from the entity; and
(b) the item has a cost or value that can be measured with reliability
.


ここでは2つの条件があります。まず最初に、将来の経済的便益(Future economic benefit)についてその流入可能性が高い(Probable)ということです。さて、ここで悩ましいのは、可能性を表すProbableという単語です。一概に言えませんが、「おおよそ70%~80%程度の可能性」というイメージでよいかと思います。

ちなみに、IFRSの中には可能性を表す単語として、沢山の単語が使われています。例えば、"Highly Probable", "Remote", "Reasonably Possible","Expected","Virtually Certain"といった用語が、それぞれ異なった可能性を示す用語として使われています。微妙なニュアンスは、ネイティブであれば当然分かるのでしょうが、IFRSが世界中で適用されることから、IFRSは様々な言語に翻訳されます。この辺りの微妙なニュアンスを翻訳によってどれだけ正確に伝えられるのか、やや疑問が残ります。

次は、上記の認識基準に従った財務諸表項目の認識です。
資産(Assets)は、将来の経済的便益が企業に流入する可能性が高く、かつ、その価値等を信頼性をもって測定できる場合に、認識されます。企業が1,000万円の商品を掛けで販売すれば、近い将来(例えば、1~2ヵ月後)に、1,000万円という現金(経済的便益)が流入することが見込まれますから、1,000万円の売掛金を資産として計上するということになります。

An asset is recognised in the balance sheet when it is probable that the future
economic benefits will flow
to the entity and the asset has a cost or value that can
be measured reliably.

次は負債(Liabilities)です。負債は、現在の債務を返済することによって経済的便益を有する資源が企業から流出する可能性が高く、返済金額が信頼性をもって測定できる場合に認識されます。現在、1億円の銀行借入金があれば、いずれ1億円の資金(経済価値)が会社から払われる(流出する)ことになりますから、負債(借入金)として認識されることになります。

A liability is recognised in the balance sheet when it is probable that an outflow of resources embodying economic benefits will result from the settlement of a present obligation and the amount at which the settlement will take place can be measured reliably.

収益(Income)は、資産の増加又は負債の減少に伴って将来の経済的便益の増加が生じ、かつ、その増加を信頼性をもって測定できる場合に認識されることになります。

Income is recognised in the income statement when an increase in future economic benefits related to an increase in an asset or a decrease of a liability has arisen that can be measured reliably.

収益(Income)が認識される場合、同時に資産の増加や負債の減少が認識されることになります。先の資産(売掛金)の例をとれば、売掛金が認識されると同時に売上という収益が認識されることになります。また、債務を免除してもらうと、債務免除益という収益が認識されると同時に、同じ額だけ負債が減少することになります。

最後に、費用(Expenses)の認識です。
費用は、資産の減少又は負債の増加に関連する将来の経済的便益の減少が生じ、かつ、それを信頼性をもって測定できる場合に認識されます。また、費用が認識される場合、同時に、資産の減少や負債の増加を伴います。電気代の支払い(現金)や賞与の支給(未払賞与の支給)等を思い浮かべれば、費用の認識基準がイメージできると思います。

Expenses are recognised in the income statement when a decrease in future economic benefits related to a decrease in an asset or an increase of a liability has arisen that can be measured reliably.

資産、負債、収益、費用の認識基準に合致したものは、貸借対照表(Balance Sheet)または損益計算書(Income Statement)といった財務諸表(Financial Statements)に漏れなく計上する必要があり、意図的に除外したりすることは許されません。

一方、上記の認識基準を満たしていないものについて、何もしなくて良いということではありません。上記の認識条件を満たさないものについても、財務諸表利用者の経済的意思決定に影響を及ぼす場合には、注記等で開示を行う旨が記載されています。

少し長くなりましたが、今回は以上です。次回は「測定(Measurement)」となります。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office