2013年3月3日日曜日

統計的サンプリング:25件のサンプル(5)

前回の続きです。

■ (再び)許容逸脱率は監査人の判断

母集団全体の本当の逸脱率(部長決裁が必要な全取引のうち、部長決裁を受けていない割合)は誰にも分かりませんもちろん、理屈上は誰かが取引全部を調べれば、本当の逸脱率は判明するのですが・・・。

極端にいえば、監査人は母集団の真の逸脱率自体を知りたいわけではありません。監査人が本当に知りたいのは、母集団の逸脱率が、(監査上許容できると考えている)一定の逸脱率より高いか低いかというこです。すなわち、(許容)逸脱率は、(事実としての逸脱率ではなく)監査人の価値判断によって決まってくる数値ということになります。逆にいえば、(監査人の判断である)許容逸脱率を決めないと、サンプル数も決まらないことになります。

なお、(実施基準の)25件のサンプルの例では許容逸脱率を9%と設定していますが、「何故9%なのか」については、私自身もよく分かりません。しかし一般的には重要な統制ほど許容逸脱率は低く設定され、サンプル数は多くなります。


■ もう少し理解を深めるために

ここで、もう少し理解を深めるために別の視点で考えてみます。「信頼度を90%とした場合、母集団全体の逸脱率は何%になるか?」ということを考えます。ここからの話は、監査人の判断(許容逸脱率)と母集団の推定逸脱率(上限逸脱率)との比較となります。

言い換えると、

許容逸脱率を9%として、25件のサンプル中1件も逸脱がない確率は9.46%(信頼度が90.54%)
                       ↓↓↓
信頼度がちょうど90%になるような、母集団の上限逸脱率(q)は何%か?


ということです。前回も少し説明したとおり、直感的に、「母集団全体の上限逸脱率は、9%より低いのではないか」と思われるでしょう。その直感が正しいことは、計算によって確かめられます。正確には、母集団の上限逸脱率は約8.8%になります(この計算の詳細は、末尾の数学的補足の(2)を参照ください。)

すなわち、上限逸脱率(8.8%)<許容逸脱率(9%)ですから、(90%の信頼度で)統制は有効であると判断できるわけです。

結局、25件のサンプルと逸脱ゼロは、以下のように解釈できます。

① 2項分布を前提に
② 許容逸脱率を9%と設定し
③ 25件のサンプルを選び
④ (サンプル中に)1件も逸脱(承認漏れ)がなければ
⑤ 90%以上の確率で
⑥ 母集団の上限逸脱率は8.8%となり、許容逸脱率(9%)を下回るから
⑦ 統制は有効であると判断できる。


蛇足ながら、許容逸脱率(9%)と信頼度(90)%は全く関係ありません。例えば、信頼度が90%の場合の危険率は10%(100%-90%)となりますが、ここで、許容逸脱率を仮に10%とすると、危険率も許容逸脱率も同じ10%になるので、混乱が生じるようです。許容逸脱率というのは(統制を評価する)監査人が設定する数値であり、信頼度や危険率とは無関係です。

数学的補足 】

(1)サンプル数の決定

必要サンプル数の決定の方法の数学的説明です。ここでは、PB(0)<10%となるように、n(サンプル数)を求めてやればよいわけです。すなわち、PB(0)=(0.91)n<10% となるようにnを求めればよいことになります。

nを求めるのに両辺の(自然)対数をとって、不等号を等号に置き換えます。
PB(0)=(0.91)n=10% ⇔ n×ln(0.91)=ln (0.1) ⇔ n=ln(0.1)÷ln(0.91)
ln(0.1)≒-2.3026,ln(0.91)≒-0.0943なので、ln(0.1)÷ln(0.91)≒24.41となります。n≒24.41となるので、(切り上げて)25件のサンプルが必要という結論になります。


(2)(信頼度90%における)推定逸脱率の計算

一方、25件のサンプルについて、90%の信頼度を前提とした逸脱率を考えます。この逸脱率は、90%の信頼度の条件を満たす(許容される)最大の逸脱率という意味で上限逸脱率(Upper Limits)などと呼ばれます。

そこで、上限逸脱率(q)の計算を考えます。この場合、(1-q)25=10% ⇔ 25×ln(1-q)=ln (0.1) ⇔ ln(1-q)=1/25×ln (0.1)となります。ここで、説明の便宜上、右辺=1/25×ln (0.1)=Aとおくと、ln(1-q)=Aとなります。また、Aを計算すると、A≒-0.0921となります。一方、対数の性質から、ln(1-q)=A ⇔ 1-qeA q=1-e(-0.0921)  となります。


eはネイピア数と呼ばれ、2.718281・・・と無限に続く無理数(分数形式で表せない数)です。e(-0.0921)≒0.9120と計算されるので、q=1-e(-0.0921) ≒1-0.9120≒0.088となります。すなわち、q(上限逸脱率)は約8.8%と計算されます。

なお、ExcelではBの自然対数は"=ln(B)",eA は"=exp(A)"で簡単に計算できます。


少し長くなりましたので、今回はここまでとします。

次回は、「逸脱件数が1件以上あった場合にどうなるか?」という点について、補足説明をしたいと思います。



清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

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