2014年12月9日火曜日

ROAとROEの関係式

1.はじめに

「財務分析」や「コーポレート・ファイナンス」の書籍では、下記の(1)と(2)の関係式がしばしば登場します。






しかし、書籍の中では導出過程が記述されていないケースが多く、「意味が良く分からない」という声を時々耳にします。ということで、今回はこの式の導出過程を含めて、ROAやROEについても簡単に説明したいと思います。


2.ROAとROE

ROA(Return on Asset)は、総資産(総資本)事業利益率を意味します。ROA=事業利益(営業利益+受取利息・配当金)÷総資産(総資本)となります。ここで注意すべきは、総資本事業利益率における事業利益は、支払利息を控除する前の金額になるということです。

理由は、分母が「総資本=負債(他人資本)+(自己)資本」になっているからです。
企業は総資本(総資産)を使って利益を生み出しています。したがって、分母に対応する分子には、この総資本(総資産)が生み出す利益を対応させるというわけです。また、ROAの計算に用いる利益は通常、「税引前」利益となります。
 
一方、ROE(Return on Equity)は、自己資本利益率を意味します。ROEの場合、分子には当期純利益が来ます。この理由は、分母が自己資本であり、自己資本に対応させるべき利益は、支払利息を控除した当期純利益とするのが理論的だからです。なお、ROEの分子の当期純利益は税引前、税引後のいずれのケースもありますが、税金支払後の利益を株主に還元(配当)するという発想から、税引後利益を用いるケースが多くなります。

以上で、ROAとROEの簡単な説明を終えます。


3.記号の意味

まず、(1)式の関係からです。 は、税引前(Before Tax)のROEを意味します。:負債利子率、D:負債、E:自己資本です。

(2)式の は、税引後(After Tax)のROEを意味します。t :法人税率です。


4.式の導出

準備が整いましたので、(1)式の導出から始めましょう。
まず、次の5つ(①~⑤)の関係式を確認してください。簡便化のため、総資産(総資本)=Aと表記しています。

① ROA(総資産利益率)=事業利益÷総資産(A) ⇔ 事業利益=総資産(A)×ROA
② 総資産(A)=負債(D)+自己資本(E) ⇔ A=D+E
③ 支払利息額=負債利子率() × 負債(D) ⇔ 支払利息額 = i ×D
④ (税引前)当期純利益=事業利益-支払利息額 
                       ⇔ (税引前)当期純利益=事業利益-(i ×D
⑤ (税引前)ROE[ 自己資本利益率 ]=(税引前)当期純利益÷自己資本(E)

■ まず、②式を①式に代入します。 事業利益=(D+E)× ROA ・・・ ①´
■ 次に①´ 式を④式に代入します。 (税引前)当期純利益=(D+E)× ROA-(i  × D) ・・・④´
■ ④´式の両辺をEで割ります。
  ④´式の左辺が、(税引前)当期純利益÷自己資本(E)=(税引前)ROEになることに注意すると
   ROE ={(D+E)× ROA-(i  × D)} ÷ E
   ⇔ ROE =(ROA × E+(ROA-)× D} ÷ E となります。
   右辺をさらに整理していくと、ROE = ROA+(ROA-)× D/Eとなり、(1)が得られました。




(2)の導出は簡単で、税金を考慮するだけです。簡略化のため、税引後当期純利益をAT、税引前当期純利益をBTと表記します。

⑥ 税引後当期純利益(AT)=当期純利益(BT)-法人税額
⑦ 法人税額 = 税引前当期純利益(BT)× 法人税率( t

■ ⑦式を⑥式に代入すると、AT = BT-(BT × t)⇔ AT=BT(1-t)・・・⑥´ を得ます。

(1)式は税引前利益を表す式ですから、(1)式の両辺に(1-tを乗じれば、税引後利益を表す(2)式になります。
 




5.ROAと負債利子率の関係

再び(1)式を考えます。



(1)式のROA(総資本事業利益率)とi (負債利子率)に着目します。
まず、ROA> i の場合を考えます。この場合(ROA-i)>0ですから、D/Eが大きいほどROEが大きくなります。

すなわち、負債利子率を上回る総資本利益率が実現できれば、負債(借入金)を(相対的に)増やすことで、ROEが増大するということになります。負債をテコに利益率が上昇するということから、財務レバレッジと呼ばれます。

逆に、ROA<i の場合には、(ROA-i)<0ですから、D/Eが大きいほど、ROEが小さくなります。
すなわち、負債利子率に満たない総資本事業利益率しか上げられなければ、負債の(相対的な)増加によってROEが低下するということです。



清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2014年8月3日日曜日

耐用年数を考える(KDDIに関する報道から)

1.はじめに

新聞報道によると、携帯電話大手のKDDIが東京国税局の税務調査を受け、2013年3月期までの5年間に、約159億円の申告漏れを指摘されたとのことです。なお、追徴税額(更正処分)は、過少申告加算税や地方税などを含め約71億円(既に納付済)ですが、KDDIは国税局との見解の相違があるため、7月30日付で国税局に異議を申し立てたとのことです。


2.耐用年数を巡る見解の相違

今回の争点は、KDDIが保有する固定資産の「鉄塔の耐用年数が何年か」を巡るものと考えられます。鉄塔の耐用年数を21年と判断して減価償却を行っていたKDDIに対し、国税局は、耐用年数は40年であるべきと考えたようです。定額法償却の場合、耐用年数が21年の場合の償却率は0.048、一方耐用年数40年の場合は0.025ですから、凡そ2倍ほど減価償却費に差が出ます。

KDDIの保有している鉄塔はかなりの金額にのぼると考えられますので、耐用年数が21年か40年かによって、減価償却の金額(償却限度額)が大きく異なります。しかも、この差異が何年間も続くことから、上述のような大きな追徴税額に至ったと考えられます。


3.双方の主張する「耐用年数」とは?

新聞報道では詳細は分かりませんが、上記の争点である「耐用年数」の食い違いについて、少しひも解いてみたいと思います。

拙著、すらすら減価償却(中央経済社)の58頁以後に税務上の耐用年数の説明がありますが、税務上の耐用年数は、「耐用年数に関する省令」で事細かく決まっています。

「耐用年数に関する省令」が作られたのはかなり昔(昭和45年)で、その後何度も改正が加えられて現在に至っています。したがって、省令が作られた当初、想定していなかった(構造・機能・用途を持つ)減価償却資産については、耐用年数省令のどこに該当するのかという判定が難しいケースが実務上も多々あります。

さて、KDDIの「耐用年数は21年」という主張、国税局の「耐用年数は40年」とする主張ですが、減価償却資産の耐用年数に関する省令から、当該鉄塔が耐用年数表のどの部分に該当するかを推測してみると、次のようになります。



耐用年数の判定においては、減価償却資産の名称等の形式的なものでなく、「どのような構造で、どのような用途(事業)に使われるものなのか」という実態に応じて判断することになりますが、こうした判断を巡って双方で解釈の食い違いが出たものと考えられます。また、他の携帯電話大手企業(NTTドコモやソフトバンクモバイル)が、耐用年数の判断をどのように行っていたかも気になります(東京国税局も、これらの情報を得たうえで、今回の追徴という判断に至ったと思われますので。)


3.教訓

土地や減価償却資産(建物、構築物、機械装置等)といった固定資産は、購入するときと処分するときは細心の注意を払って処理しますが、保有期間中の処理というのは、案外見過ごされがちです。耐用年数の判定も、購入や建設当初には当然検討しますが、その後の見直しというのは、省令等の改正がない限り、あまり行われていません。

適正な耐用年数になっていれば問題はありませんが、例えば、過去の税務調査等で指摘されなかったからといって、必ずしも適切な耐用年数になっているとは限りません(過去の税務調査で、見過ごされている可能性があります。)耐用年数が間違っていれば、結果として何年間にもわたって間違った減価償却費が計上されてしまうことになります。

減価償却資産や減価償却費が比較的多額な場合、 固定資産現物と固定資産台帳の定期的な照合に加え、耐用年数の検討(検証)も併せて行ってみると良いと思われます。

また、ライフサイクルの短い製品の生産設備や特殊な機械等で、耐用年数省令に基づいて償却することが実態に即さない場合には、耐用年数短縮の承認申請を行うといった方法も検討できます。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2014年6月2日月曜日

金融商品取引法の改正(新規上場後3年間、内部統制監査の免除)

1.はじめに

改正金融商品取引法が5月23日の参議院本会議で成立しました。
幾つかある改正内容の中で注目すべきは、株式公開(IPO:Initial Public Offering)を促進するため、上場から3年間は「内部統制報告書」の監査を免除することとされた改正です。施行日は「公布日から1年以内」となっています。


2.「内部統制」と「内部統制報告書監査」

 内部統制監査の対象となる「内部統制」とは、適切な財務情報(財務諸表)を開示するための社内の体制です。「内部統制」が有効か否かについて、(1)まず、経営者が内部統制の有効性を評価し、(2)その評価結果を公認会計士が監査することが義務付けられており、これが内部統制(報告書)監査といわれるものです。この内部統制(報告書)監査は、平成21年3月期決算から導入されました。


3.内部統制監査と小規模企業の負担

現行制度では、上場と同時に内部統制監査がスタートします。したがって、各種の上場準備作業と並行して内部統制監査に耐えられるだけの社内体制を作る必要があります。そのため、新規上場のハードルがかなり高くなっているという指摘がありました。さらに、こうしたハードルの高さ故、新規上場社数が伸び悩んでいるという面も否定できませんでした。

今回の改正で、上場後3年間は内部統制監査が免除されることになりました。その結果、上場時の企業の負担が軽減され、証券市場の活性化に寄与することが期待されています。


4.上場時に、内部統制が不要というわけではない

内部統制監査が免除されるからといって、上場時の内部統制がいい加減であってもよいということではありません。上場に際しては、証券取引所や主幹事証券会社によるかなり厳しい審査を受ける必要があり、(この審査には)内部統制の審査も含まれます。この上場時の審査をパスできるだけの内部統制が整備されていれば、(3年間は)内部統制監査を免除しても問題ないとされたのです。

ただ、すべての新規上場会社について内部統制監査が免除されるわけではなく、特に企業規模が大きく、社会・経済的影響力の大きな企業は除かれています。


5.二段構えの内部統制構築とスケジュール管理

新規上場時に内部統制監査が免除されることから、内部統制に関しては段階的構築・運用ができるようになりました。

第1段階(上場前)
主幹事証券会社や証券取引所の審査に耐えられる内部統制構築・運用

第2段階(上場後)
内部統制監査に耐えられる内部統制構築・運用 ☛ (1)の拡充

もちろん、第一段階、第二段階の内部統制は別物ではなく、第一段階の延長線上に第二段階があります。

注意すべきは、上場後というのは、大きな仕事をやり遂げたという達成感から、社内体制構築や運用が緩くなる危険性があります。そうした中で、再び気分を引き締めて、3年後に向けて(内部統制監査に耐えられる)内部統制の構築を行う必要があります。そのためには、公開後も気を抜かず、しっかりとしたスケジュール管理の下、内部統制の拡充を図ることが求められます。


6.内部統制監査の対象とならない「内部統制」も重要(=リスク管理)

 今回話題となっている「内部統制」は、主に、財務報告(財務諸表の作成・公表)に関する内部統制です。しかし、内部統制には、財務報告に直接関連しないものもあります。例えば、取引先(顧客)情報・個人情報等の重要な情報の管理、(メーカーであれば)、製品検査納期管理などがあります。

すなわち、内部統制監査の対象でない内部統制であっても、(会社の運営上は)同じように構築することが必要になるのです。すなわち、財務情報を含め、会社を取り巻くリスクを統合的に管理する内部統制が必要になるのです。

こうした内部統制全般を短期間に整備・構築することは困難です。したがって、内部統制の重要性を早い段階で認識し、リスクの大小に応じた優先順位をつけながら、段階的に構築していくことが必要になります。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2014年5月28日水曜日

交際費課税の改正

1.はじめに

平成26 年3月31 日に公布された所得税法等の一部を改正する法律により、法人の交際費等の損金不算入制度が改正され、平成26 年4月1日以後開始事業年度から適用されています。


2.改正の概要

(1)全法人共通
  交際費等の額のうち、接待飲食費(社内飲食費を除く一定の飲食費)の額の50% に相当する金額を損金の額に算入

(2)中小法人の場合
 
   ● 上記の接待飲食費の額の50% 相当額の損金算入
   ● 定額控除限度額(800万円 ) までの損金算入    
 のいずれか有利な方を選択可能


3.補足説明

(1)中小法人以外(≒大企業の場合)
従来、交際費の損金算入は認められていませんでした。交際費の内、接待飲食費については、その50%が損金算入できることになりました。




(2)中小法人(≒中小企業)の場合
現行の「800万円の定額控除制度」と「接待飲食費の50%相当額」の選択適用となりますので、接待飲食費の金額の多寡によって、有利・不利の判定が変わってくることになります。


ただ、下記の図表で見る通り、中小法人の内、「接待飲食費の50%相当額の控除」を使った方が有利な法人は、「接待飲食費が1,600万円を超える法人」となりますので、大半のケースでは、「800万円の定額控除」の方が有利と考えられます。



なお、詳細は国税庁の平成26年度 交際費等の損金不算入制度の改正のあらまし(パンフレット)をご参照下さい。



清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年12月26日木曜日

相続税改正の影響試算と今後の対応

1.はじめに

平成27年1月1日以後の相続から、基礎控除が3,000万円(定額控除)、600万円(比例控除)にそれぞれ引き下げられます(以下の図表参照)。また、相続税率も最高税率がアップするなど、相続税の税負担は増加すると考えられます。

そこで今回は、相続税の改正による影響を簡単なケースで分析し、今後の注意点を検討してみました。








2.二次相続を考慮した税負担の試算の必要性

 
相続には一次相続二次相続があります。

一次相続とは、例えば、(財産を持つ)夫が亡くなり、妻(又は子)が夫の財産を相続するケースを意味します。一次相続の場合、仮に夫にかなりの財産があっても、実は、「配偶者控除」を使うことによって税負担はかなり軽減されます。

ところが、夫の財産を相続した妻から子への相続である二次相続の場合、配偶者控除が使えませんので、税負担は高くなります。一次相続と二次相続を経て、親の代の財産が子の代へと受け継がれることになりますから、相続税負担の試算では、一次相続と二次相続の双方を考慮する必要があるわけです。


3.ケースによる税負担の試算

遺産総額が1億円(債務控除後の純額)の場合で、妻と2人の子供を相続人とする相続を考えます。現行制度と税制改正後の税負担は以下のとおりとなります。




まず、相続税の総額で見ると、295万円(395万円-100万円)増加しています。従来ほとんど相続税が係らない層にも、今後は比較的多額の相続税が課される可能性があるという傾向が読み取れます。

次に二次相続を検討します。二次相続では、夫から受け継いだ妻の財産(5,000万円)を2人の子供が相続することになります(単純化のため、妻固有の財産は考慮していません。)

現行税制では、基礎控除が7,000万円(5,000万円+1,000万円×2人)ありますので、妻の財産(5,000万円)は基礎控除の範囲内です。したがって、二次相続では相続税負担は生じません。言い換えれば、相続税という観点からは、基本的に一次相続のみを考慮すれば足りると考えられます。

ところが、改正後の基礎控除は4,200万円(3,000万円+600万円×2人)となりますから、妻の財産(5,000万円)は基礎控除を超えています。すなわち、二次相続(妻から子への相続)にも相続税が課されることになるのです。

さらに、財産が2億円になると、二次相続の負担が増えていくことが分かります。




さらに、相続財産が8億円の場合、二次相続の負担が一層高まることが読み取れます。



4.相続税改正から読み取れること、今後の対応

上記の簡単なケースから、相続税の改正に関して次の2つのことが読み取れます。

(1)二次相続の重要性

まず、二次相続の重要性です。もちろん、現行税制においても二次相続を考慮する必要性は高く、特に、財産総額が数億円を超えてくると、二次相続の負担を踏まえて相続税の試算や対策を行う必要があります。この点、税制改正による基礎控除の引下げと税率引上げによって、税率が比較的低い層の方々にとっても、二次相続の重要性は高まると言えるでしょう。


(2)負担感は、むしろ税率の低い層のほうが高い

次に、今まで相続税をあまり心配する必要のなかった方々(相続税がかからなかった、あるいは、多額の相続税がかからなかった方々)の実質的な負担の増加です。例えば、上記の8億円のケースでは、確かに税制改正による負担は上昇していますし、相続税総額も多額となっていますが、実質的な負担増(表最下段の「実質的な税率」の差)は、2.7%(30.1%-27.4%)となっています。

一方、実質的な負担増は1億円の場合3.0%(4.0%-1.0%)、2億円の場合は4.1%(10.6%-6.5%)となり、8億円の財産を持つ方よりもむしろ大きくなっています。1億円、2億といった相続財産を保有される方々のほうが、負担感はむしろ高くなるという見方もできるかもしれません。


5.おわりに

相続や事業承継において、相続税(対策)を過度に重視すると、近視眼的思考に陥り、本質を見失う可能性があります。まずは二次相続を含めた相続税の試算等や現状分析については、早めに準備しておく必要性は高いと考えられます。



清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年9月30日月曜日

土地の値段 一物四価

先日(9月19日)、平成25年都道府県地価調査に基づく『基準地価格』が公表されましたので、今回は土地関係の話題です。


1.分かりにくい土地の価格

土地の価格というのは、なかなか分かり難いものです。世の中に「同じような土地」はあっても、「まったく同じ土地」はありません。土地は極めて強い個別性を持っています。

土地は売買されますが、上場株式のような確立した市場はなく、売買できる土地の量もかなり限られています。また、買主や売主の持つ事情、保有している情報の質・量によって、現実の取引価格も大きく変わってきます。

一方、土地を買うと不動産取得税や登録免許税(登記に必要な税金)かかりますし、保有している土地には固定資産税や都市計画税がかかります。また、土地を売れば売却益に税金がかかります。さらに、土地を相続又は贈与すると相続税や贈与税がかかります。これらの税金の元になる土地価格は同じものではありません。様々な土地の価格に基づいて、各種の税金が計算されます。


2.土地の価格(一物四価)

土地の価格と一口に言っても、その意味するところはマチマチです。ここでは、以下の5つの土地価格の意味を見ていきます。なお、(2)の公示価格と(3)の基準地価は、時点が多少違いますが基本的に同じ意味合いを持つ土地価格ですので、両方を1つと考え、実勢価格、公示価格(基準地価)、路線価、固定資産税評価額で、『一物四価』と考えられます。

 (1) 実勢価格
 (2) 公示価格
 (3) 基準地価 
 (4) 路線価(相続税路線価)
 (5) 固定資産税評価額(固定資産税路線価)


3.土地価格の種類

 (1)実勢価格

現実に土地が取引される価格を実勢価格といいます。

実勢価格は、現実に売買当事者間で成立した価格ですが、売主や買主の特殊事情(早く売りたい、とか、多少高くても買いたいといった事情)が入っていることも多いので、かなりバラツキがあるのが通常です。

なお、地域の不動産取引を数多く扱っている地元の不動産業者の方は、実勢価格に基づいてその地域の「相場観」を持っていますので、その地域で現実に土地売買を検討する際には参考になるでしょう。


(2)公示価格

公示価格とは、法律(地価公示法)に基づき、国土交通省が公表する土地の価格を意味します。

具体的には、一定の標準となる土地(平成25年の地価公示では、全国で26,000地点)を選んで、その年の1月1日現在の価格を算定し、毎年3月下旬頃公表します。また、公示価格は、上記の実勢価格から様々な特殊事情を除外した価格を意味し、1㎡当たり更地価格として公表されます。

公示価格は、①一般の土地取引の指標、②公共事業用地の取得、③相続評価や固定資産税評価などの目安として利用されます。


(3)基準地価格

基準地価格とは、都道府県知事が政令(国土利用計画法施行令)に基づいて公表する土地の価格です。

公示価格同様、基準となる土地(平成25年の基準地価では全国約22,000地点)を選んで、その年の7月1日現在の価格を算定し、毎年9月下旬頃公表しています。価格の意味合いは公示価格とほぼ同じですが、価格の判定日が公示価格とちょうど半年違っていることから、公示価格を補完するものとも言えます。

基準地価格の地点は、上記の公示価格の地点と重複しているものも多くなっていますが、公示地価が「都市計画区域」の中にある土地を対象としているのに対して、基準地価格は、都市計画区域外の土地も含んでいます。


(4)路線価(相続税路線価)

路線価は相続税や贈与税の課税を目的として、国税庁が定めている価格です。路線価は、毎年1月1日を評価時点として、公示価格(基準地価)、売買実例、精通者の意見等に基づいて算定されます。路線価図を見ると道路に値段が付いていますが、路線価とは、その道路に面した土地の1㎡当たりの評価額を意味します。路線価は公示価格の80%を目安に定められています。

 
相続税の財産評価は基本的に時価となっていますので、土地も時価で評価して申告するのが原則です。しかし、土地を時価評価することは、土地の個別性があるため、なかなか困難です。しかも、土地の個別事情を考慮した評価額が妥当かどうかについて、税務署側が判断するのも相当な労力が必要です。そこで、ある程度画一的に評価できるように、国税庁が土地の価格を定めたのが「路線価」です。

なお、平成25年分の路線価(評価時点平成25年1月1日)は、平成25年(平成25年1月1日~平成25年12月31日))に発生した相続や贈与について適用されます。したがって、例えば、1月の相続や贈与の場合、まだその年の路線価が公表されていませんので、土地の評価が必要な場合には、(7月に公表される)路線価を待って評価・申告を行うことになります。


(5)固定資産税評価額(≒固定資産税路線価)

固定資産税や都市計画税といった土地の保有に関する税金や不動産取得税登録免許税(登記の印紙代)を計算する基礎となる価格です。さらに、上述の(相続税)路線価がない土地の相続税や贈与税における土地評価を行う際の基準としても用いられます。

固定資産税評価額は、課税主体である各市区町村が決定します。土地については、3年毎に1月1日現在の価格して決定されています。固定資産税路線価は公示価格の70%を目安として決定されています。

固定資産税評価額は、基準となる路線価(固定資産税路線価)に市区町村が各種の調整を加え、評価額を決定しています。一方、相続税や贈与税の土地評価額(相続税評価額)は、路線価を利用して納税者側が土地の個別性を加味して算定します。

以上をまとめると、下記の表のようになります。

  公示価格(基準地価格) 相続税路線価 固定資産税路線価
目  的 土地取引の指標等、公共事業用地の取得、相続税路線価等の目安 課税目的(相続税・贈与税における土地評価) 課税目的(固定資産税・都市計画税、不動産取得税、登録免許税)
価格の基準日 公示価格:1月1日 毎年1月1日 1月1日(3年毎)
基準地価:7月1日
公表時期 公示価格:3月下旬 毎年7月上旬 3月初旬(3年毎)
基準価格:9月下旬
価格水準
公示価格の80% 公示価格の70%



4.土地価格の推定(簡便法)

前述のとおり、公示価格、相続税路線価、固定資産税路線価の間には次のような関係があります。

 (A) 路線価:公示価格の80%
 (B) 固定資産税路線価:公示価格の70%
      

この関係を利用すると、以下のような簡単な計算ができます。

 (イ)土地の実勢価格(目安)を推定したい場合
    ✓ 推定公示価格 → 相続税路線価 ÷ 0.8(路線価×1.25) 
                                 または
                              固定資産税路線価(≒固定資産税評価額) ÷ 0.7

  (例)相続税路線価が24万円/㎡の場合
       → 推定公示価格=24万円/㎡÷0.8=30万円/㎡

 

 (ロ)土地の固定資産税評価額(目安)を推定したい場合
    ✓ 推定固定資産税評価額 → 相続税路線価 ÷0.8 ×0.7  

   (例)路線価が24万円/㎡の場合
       → 推定固定資産税評価額=24万円/㎡÷0.8×0.7=21万円/㎡

      
なお、固定資産税や都市計画税の課税標準額は、固定資産税評価額とは必ずしも一致しません。課税標準額は、軽減措置(小規模住宅用地の軽減等)や負担調整率を考慮して決定されています。



清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年9月27日金曜日

非嫡出子の相続分の違憲決定に伴う相続税の取り扱い(速報)

1.平成25年9月4日の最高裁判所の決定について

民法の規定では、法律上婚姻関係のない両親から生まれた「婚外子」(非嫡出子)の相続については、「法律婚の子(嫡出子)の2分の1」とする旨が規定されています。

民法第900条4号
子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
 
この民法規定を巡る裁判(平成13年7月に死亡した被相続人の遺産に関する裁判)で、最高裁は9月4日、「憲法に違反する」として非嫡出子の相続分に関する規定(非嫡出子の相続分を嫡出子の1/2とする規定)を無効とする判断を下しました。この結果、民法の相続分において、嫡出子と非嫡出子の差はなくなりました。


2.最高裁の決定を受けた相続税の扱い

(1)原則的取扱い

今回の最高裁の決定(違憲決定)を受けて、国税庁から相続税の扱いが公表されました。
今回の決定は、『確定的なものになった法律関係に影響を及ぼすものではない』と判示されていることから、決定の日(9月4日)を境に、違憲決定前(9月4日以前)か決定後(9月5日以後)かによって、取り扱いが分かれることになります。

すなわち、9月4日以前に相続税が確定している場合には、非嫡出子の相続分を嫡出子の1/2とする規定(以下、「嫡出に関する規定」)があるものとして相続税の計算・申告を行い、9月5日以後に相続税額が確定するものについては、「嫡出に関する規定」がないものとして相続税の計算・申告を行うことになります。


(2)例外的取扱い

原則的取扱いでは、9月4日と9月5日で、「嫡出に関する規定」の扱いに差が出ることになります。しかし、たった1日の差で相続税額に差が出るというのも、やや不公平感があります。そこで、9月4日以前に一旦確定した税額が、9月5日以後に変動するような場合には、「嫡出に関する規定」とする規定)がないものとして相続税の計算・申告ができることとされました。最高裁の決定事例が平成13年7月の相続であったため、相続税法でも平成13年7月以後に発生した相続が対象となっています。

例えば、平成25年8月31日に相続税の申告書を提出した場合を考えます。この場合、9月5日以後に新たに財産が見つかったり(申告漏れ)、評価に誤りが判明したため、修正申告書や更正の請求書を提出するとします。あるいは、9月5日以後に税務署による更正や更正決定があったとします。この場合には、一旦決定した税額が9月5日以後に変動するので、嫡出に関する規定がないものとして相続税額が計算されます。

ただし、「嫡出に関する規定」だけを理由とした更正の請求はできません。すなわち、「嫡出に関する規定」以外の理由で、確定した税額が変動することが必要になるわけです。

なお、平成25年9月4日以前の相続について、相続税の計算において「嫡出に関する規定」がないものとして扱われたとしても、『民法上の相続分』の扱いとは別の話であるという点を申し添えます。

上記の相続税上の扱いをまとめると、次の表のとおりになります。




詳細については、国税庁の以下のサイトをご覧ください。
http://www.nta.go.jp/sonota/sonota/osirase/data/h25/saikosai_20130904/index.htm




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