2013年8月22日木曜日

ホーソン効果(Hawthorne Effect)は”なかった”のか?

1.ホーソン実験とホーソン効果

ホーソン実験とは、1927年から1932年にかけて、米国シカゴのウエスタン・エレクトリック社のホーソン工場で行われた一連の実験を意味します。この実験では、従業員の作業効率に及ぼす様々な要因についての実験が行われました。例えば、「照明実験」は、工場の照明(の明るさ)と作業効率(組立個数)の関係を調べることを目的とした実験でした。照明を明るくすれば作業効率は上がり、逆に暗くすれば効率は下がるだろうと仮定したのです。

しかし実際は、照明を明るくした場合も暗くした場合も、どちらの場合も従来よりも作業効率が向上するという矛盾した現象が観察されたのです。従業員(被験者)には、実験を行っているという事実だけが伝えられており、実験の目的は明かされていませんでした。そこで、照明の明るさに関係なく作業効率が向上したのは、実験に参加している従業員(被験者)が、「自分達は重要な実験に参加しており、注目されている」と考えたことが原因ではないか、考えられるようになりました。

このように、従業員が抱く「周囲から注目(期待)されているという意識」が生産性を高める効果のことを、一般にホーソン効果(Hawthorne effect)と呼びます。





2.人間関係論と科学的管理法

20世紀の初頭にフレデリック・テイラーによって提唱された「科学的管理法」では、人間を機械のように扱い、労働への動機付けは主に「金銭」であると考えました。

しかし、ホーソン工場で行われた一連の実験により、生産性に影響するのは、①職場での人間関係、②職場のインフォーマルグループやその規範、あるいは、③指導監督者のリーダーシップであるという仮説が導かれました。

ホーソン実験は、経営学や心理学等の社会科学に大きな影響を与えました。例えば、ホーソン実験に始まる「人間関係論」は、テイラーの「科学的管理法」とともに、経営学発展の重要な試金石となりました。現在でも、経営学や組織論の教科書には、ほぼ100%の確率でホーソン実験(効果)取り上げられているといっても過言ではありません。


3.統計的見地から見たホーソン実験(ホーソン効果)

ところが、近年になって、当初行われたホーソン実験の結果を疑問視する論文がいくつか公表されるようになりました。当時実際に行われた実験データに基づき、統計的な解析を加えた結果、ホーソン効果に関して、統計上有意な(意味のある)結果は、認められなかったと指摘しています。

例えば次のような問題点が指摘されています。

(1)実験データは5人の女性作業員と3名の代替要員の合計8名に過ぎないこと。
(2)生産性の変化の指標(平均値)自体、極めて小さいこと。
(3) コントロールグループを設定した対照実験が行われていないこと。


(1)については、そもそもサンプル数が非常に少なかったということです。
(3)のコントロールグループを設定した実験とは、例えば以下のような2つのグループを設定して行う実験です。
★ Aグループ(コントロールグループ)
  ☛ 実験に参加していることを知らせずに照明の明暗だけ調整する被験者グループ

★ Bグループ(ホーソン効果を検証したいグループ)
  ☛ 実験に参加していることを伝えたうえで、照明の明暗を調整する被験者グループ

AグループとBグループを観察した結果、Bグループの方の生産効率が高いことが統計上示されれば、ホーソン効果の存在が立証できることになります。


4.ホーソン効果は存在するのか?

上記のとおり、ホーソン工場の実験によって示された「ホーソン効果」は、かなり疑義があると言わざるを得ません。また、ホーソン実験で”分かった”とされる実験結果は、その後多くの学者達によって、様々な意味合いが付与されてきた(拡大解釈されてきた)と言えるのかもしれません。

但し、上記の結果をもって「ホーソン効果は存在しない。」とまでは言えません。周囲からの期待によりモチベーションがアップし、結果的に生産効率が上がるというのは、十分納得できる帰結です。ただ、ホーソン効果の存在を実証するためには、1920年代に行われたのと同じような実験を、何度か行う必要があるのかもしれません。


【参考文献】
Jones, Stephen R. G. (1992). "Was there a Hawthorne effect?".American Journal of Sociology 98 (3): 451–468.



 
清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年8月16日金曜日

ビジネスモデル

本日は、ビジネスモデル(Business Model)のお話です。



1.「ビジネスモデル」という用語の誕生

ビジネスモデルという言葉が使われ始めたのは1990年代の後半、ちょうど米国のITバブル(「インターネット・バブル」とか「ドットコム・バブル」とも呼ばれていました。)の真っ最中だったように記憶しています。この時期には、いわゆるドットコム(dot.com)企業と言われるインターネット関連のベンチャー企業が続々と設立され、これらの会社がごく短期間のうちに株式上場を果たしました。1999年~2000年頃にかけてドットコム企業の株価は異常なまでに上昇しましたが、2001年にはバブルがはじけました。

日本でも当時「2000年問題」が話題となりましたが、(ちょうど同じ時期である)1999年~2000年頃、IT系企業の新規上場で株式市場が活性化しました。しかし、やはり2001年頃、日本でもバブルがはじけたのです。


2.ビジネスモデルの有効性を評価する2つのテスト

世の中にビジネスモデルについて書かれた本は沢山ありますが、今回ご紹介するのは、「ビジネスモデル」を検証する簡単かつ有効な方法として、Harvard Business Schoolの Joan Magretta 教授が提唱したテストです。

このテストはとてもシンプルで、(1) The Narrative Testと(2) The NumberTestの2つのテストから成ります。

(1) The narrative test

The Narrative Testとは、「モデルの有効性を論理的かつ説得力をもって説明できるか」ということです。すなわち、
 
   ① 顧客は誰か?
   ② 顧客は何に価値を見出しているか?
   ③ 顧客にどのようにして価値を提供できるか?
     という点について説得力をもって語ることができるかということになります。


(2) The numbers test

(1)のテストを通過したビジネスモデルが、(長期的に)収益(キャッシュフロー)を生むかどうかというテストです。言い換えると、ビジネスモデルを損益計算書やキャッシュフロー計算書に落とし込んだ場合、利益や資金を生むモデルになっているのか、ということです。

仮に価値のある製品やサービスを提供できたとしても、コストをカバーできるだけの収入(収益)がなければ、事業としては成り立ちません。


3.終わりに

上記の2つのテストは、別の見方をすると、「定性テスト」と「定量テスト」といえるかもしれません。

(1)定性テスト:顧客が認める価値とその提供方法を論理的に説明できるのか?
(2)定量テスト:数値面から、収益(資金)を生むモデルになっているのか?

上記の2つのテストは、至極当たり前のことです。
しかし、今まで様々なビジネスモデルを見てきた経験では、①顧客が認める価値についての分析が不十分だったり、②モデルの論理性(一貫性)が欠けていたり、あるいは、③事業として成り立つかどうか(コストはどの位かかって、いつまでに、いくら、どうやって稼ぐのか)が曖昧だったりすることが極めて多いことも事実です。

もちろん、完璧なビジネスモデルなど存在しないので、2つのテストで非の打ちどころのないモデルを構築する必要はありません。

重要なのは、2つのテストを行って、①モデルのどこに課題があるのか、②それをどのように改善すべきか、について十分検討することによって、自身のビジネスモデルをより良いものにしていくことです。

参考文献 Joan Magretta, Why Business Models Matter, Harvard Business Review, May 2002



清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年8月9日金曜日

5匹のサルの実験

本日は、5匹の猿を使った実験についてお話しします。キーワードは「猿」、「バナナ」、「はしご(踏み台)」、(冷水の)「放水」です。実験は3段階に分かれます。


● 第1段階

5匹の猿がオリに入れられます。オリの上からバナナが吊るされ、ちょうどその真下に(バナナに手が届くように)踏み台が設置されます。

一匹の猿がバナナを目がけて踏み台をよじ登ろうとすると、その猿に冷水が浴びせられます。さらに、残り(4匹)の猿にも同様に冷水が浴びせられます。猿が踏み台を登ろうとすると、その都度、登ろうとした猿と残り(4匹)の猿達に冷水が浴びせられます。

この実験は、踏み台を登ろうとする猿がいなくなるまで、すなわち、「バナナを取ろうとして踏み台に登ろうとすると、(すべての猿に)冷水が浴びせられる」ということを、5匹の猿が学習するまで、続けられます。水を浴びせるのは第1段階で終了します。


● 第2段階

5匹の猿が学習を終えたところで、1匹の猿がオリから出され、別の(新しい)猿がオリに入れられます。オリの中には、「新参者の猿:1匹」と古参の猿:4匹」という状況になります。

新参者の猿は、(予想通り)バナナを見つけると、取ろうとして踏み台をよじ登ります。そうすると、残り4匹の猿が(踏み台を登らせまいと)新参者の猿を目がけて一斉に襲い掛かります。その後も、新参者の猿が踏み台を登ろうとするたび、他の猿が襲い掛かります。そして最後には、新参者の猿は、踏み台をよじ登ろうとしなくなります。「踏み台を登ろうとすると仲間の猿から攻撃される」という教訓を学習したわけです。新参者の猿は、冷水を浴びせられた経験がないにも拘らず・・・。

新参者の猿が学習を終えると、(古参の)2匹目の猿がオリから出され、新しい猿がオリに入れられます。新参者の猿は、踏み台を登ろうとしますが、そのたびに他の4匹の猿から総攻撃にあいます。かくして、「踏み台に登ろうとすると酷い目にあう」ことを学習していきます。このようにして、新参者の猿の学習に合わせて3匹目の猿、4匹目の猿・・・と順次新しい猿と入れ替えられていきます。


● 第3段階

(古参の)5匹目の猿がオリから出され、代わりに新参者の猿が入ってきます。この時点で、オリの中に残っている4匹の猿はいずれも冷水を浴びせられた経験がない猿達となります。

例によって、新参者の猿が踏み台によじ登ろうとすると、残り4匹の猿は新入りに一斉攻撃を仕掛けます。(攻撃を仕掛ける4匹の猿達は)冷水を浴びせられた経験が全くないにもかかわらず・・・。


● 教訓

我々人間社会には、様々な規範や慣行があります。また、会社内にも様々なルールや仕事のやり方があります。こうした規範やルール等は、社会生活を行う上で、あるいは仕事を行う上で必要不可欠なものです。

しかしながら、かつては意味のあった規範やルール、あるいは仕事のやり方であったとしても、時代の流れとともに、今ではその意味がほとんど失われてしまっているものも少なくありません。
例えば、単に『前任者が行っていたから』という理由だけで、(その仕事の意味や目的を深く考えずに)行われている手続きも多々あります。

「5匹の猿の実験」の教訓として、時々フレッシュな視点で、「今の仕事のやり方、その意味(必要性)を再検討してみること」も必要でしょう。


● 備考

今回の5匹の猿の実験はかなり有名で、経営書にもたびたび登場するのですが、出典がよく分かりません。下記の1967年に行われた(猿を使った)実験がヒントになっているようですが、上記の実験に関するデータについては確認できませんでした。


 <参考文献>
F. ヴァーミューレン(2013)『ヤバい経営学: 世界のビジネスで行われている不都合な真実』  本木 隆一郎、山形 佳史(訳) 東洋経済新報社

G. ハメル& C.K.プラハラード(1995) 『コア・コンピタンス経営』」 一條和生(訳) 日本経済新聞社

Stephenson, G. R. (1967). Cultural acquisition of a specific learned response among rhesus monkeys. In: Starek, D., Schneider, R., and Kuhn, H. J. (eds.), Progress in Primatology, Stuttgart: Fischer, pp. 279-288.



清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office