2014年8月3日日曜日

耐用年数を考える(KDDIに関する報道から)

1.はじめに

新聞報道によると、携帯電話大手のKDDIが東京国税局の税務調査を受け、2013年3月期までの5年間に、約159億円の申告漏れを指摘されたとのことです。なお、追徴税額(更正処分)は、過少申告加算税や地方税などを含め約71億円(既に納付済)ですが、KDDIは国税局との見解の相違があるため、7月30日付で国税局に異議を申し立てたとのことです。


2.耐用年数を巡る見解の相違

今回の争点は、KDDIが保有する固定資産の「鉄塔の耐用年数が何年か」を巡るものと考えられます。鉄塔の耐用年数を21年と判断して減価償却を行っていたKDDIに対し、国税局は、耐用年数は40年であるべきと考えたようです。定額法償却の場合、耐用年数が21年の場合の償却率は0.048、一方耐用年数40年の場合は0.025ですから、凡そ2倍ほど減価償却費に差が出ます。

KDDIの保有している鉄塔はかなりの金額にのぼると考えられますので、耐用年数が21年か40年かによって、減価償却の金額(償却限度額)が大きく異なります。しかも、この差異が何年間も続くことから、上述のような大きな追徴税額に至ったと考えられます。


3.双方の主張する「耐用年数」とは?

新聞報道では詳細は分かりませんが、上記の争点である「耐用年数」の食い違いについて、少しひも解いてみたいと思います。

拙著、すらすら減価償却(中央経済社)の58頁以後に税務上の耐用年数の説明がありますが、税務上の耐用年数は、「耐用年数に関する省令」で事細かく決まっています。

「耐用年数に関する省令」が作られたのはかなり昔(昭和45年)で、その後何度も改正が加えられて現在に至っています。したがって、省令が作られた当初、想定していなかった(構造・機能・用途を持つ)減価償却資産については、耐用年数省令のどこに該当するのかという判定が難しいケースが実務上も多々あります。

さて、KDDIの「耐用年数は21年」という主張、国税局の「耐用年数は40年」とする主張ですが、減価償却資産の耐用年数に関する省令から、当該鉄塔が耐用年数表のどの部分に該当するかを推測してみると、次のようになります。



耐用年数の判定においては、減価償却資産の名称等の形式的なものでなく、「どのような構造で、どのような用途(事業)に使われるものなのか」という実態に応じて判断することになりますが、こうした判断を巡って双方で解釈の食い違いが出たものと考えられます。また、他の携帯電話大手企業(NTTドコモやソフトバンクモバイル)が、耐用年数の判断をどのように行っていたかも気になります(東京国税局も、これらの情報を得たうえで、今回の追徴という判断に至ったと思われますので。)


3.教訓

土地や減価償却資産(建物、構築物、機械装置等)といった固定資産は、購入するときと処分するときは細心の注意を払って処理しますが、保有期間中の処理というのは、案外見過ごされがちです。耐用年数の判定も、購入や建設当初には当然検討しますが、その後の見直しというのは、省令等の改正がない限り、あまり行われていません。

適正な耐用年数になっていれば問題はありませんが、例えば、過去の税務調査等で指摘されなかったからといって、必ずしも適切な耐用年数になっているとは限りません(過去の税務調査で、見過ごされている可能性があります。)耐用年数が間違っていれば、結果として何年間にもわたって間違った減価償却費が計上されてしまうことになります。

減価償却資産や減価償却費が比較的多額な場合、 固定資産現物と固定資産台帳の定期的な照合に加え、耐用年数の検討(検証)も併せて行ってみると良いと思われます。

また、ライフサイクルの短い製品の生産設備や特殊な機械等で、耐用年数省令に基づいて償却することが実態に即さない場合には、耐用年数短縮の承認申請を行うといった方法も検討できます。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office