2013年3月17日日曜日

統計的サンプリング:25件のサンプル(7)

■ 離散型確率分布と連続型確率分布

前回までの説明に用いた2項分布(Binomial Distribution)は、「離散型確率分布(Discrete Probability Distribution)」と呼ばれる確率分布です。「離散型」とは文字通り、「離れ離れ点在する」という意味です。先の部長承認の統制では、逸脱(承認漏れ)件数は、0,1,2,3,4,5,6・・・となり、こうした点在する値に対応して確率が計算されることになります。

下のグラフは、サンプル数25件、逸脱率9%の二項分布のグラフです。表示上は滑らかな曲線に見えますが、実際は、逸脱件数(自然数)に対応した確率が点在するグラフです。逸脱件数が2件(≒25件×9%)の時の確率が最大で、逸脱が0件の時の確率が10%を少し下回っているのが分かります(危険率が10%未満ということなので、信頼度90%以上を意味します)。




一方、例えば、日本人男性全員の身長を集めたデータは、下記の図のようなツリガネ型の正規分布(Normal Distribution)に従っていると考えられます。正規分布は連続型確率分布(Continuous Probability Distribution )となります。連続型分布の場合、(データが切れ目無く存在しますので)滑らかな曲線となります。



■ 二項分布から正規分布へ

上記の2つのグラフを比べると、グラフの形がかなり違います。しかし、二項分布でサンプル数を50件、100件、200件と増やしていくと、正規分布に徐々に近づいていくことが分かります。






なお、2項分布について、サンプル数:n→∞とすることで、正規分布になることは、数学的にも証明できます。

■ 許容逸脱率、信頼度、サンプル件数の関係

ここまでの議論で、以下の2つのことが言えることがお分かりかと思います。

① 許容逸脱率が低くなると、サンプル件数は増加する。
② 信頼度が高くなるほど、サンプル件数は増加する。


許容逸脱率は監査人が設定するハードルであり、このハードルを高めれば(許容逸脱率を低くすれば)、サンプル数は増加します。

一方、信頼度を高めることは、危険率(100%-信頼度)を低くすることになりますので、サンプル件数は増加します。

信頼度、許容逸脱率、(必要)サンプル件数の関係を示すと以下のようになります。   

信頼度:90%信頼度:95%
許容逸脱率:9%
25
32
許容逸脱率:6%
38
49
許容逸脱率:3%
76
99


■ 予想逸脱率、許容逸脱率、サンプル件数の関係

25件のサンプルの例や上記の①、②の説明においては、監査人の(母集団に対する事前)予想は考慮していませんでした。すなわち、監査人が事前に設定するのは「許容逸脱率」だけであり、(サンプル件数の決定時には)サンプル中には逸脱がないという暗黙の想定をしています。

ところが、過去の監査の実績等により、監査人が会社の統制の逸脱率を知っている場合があります。この逸脱率を予想逸脱率(Expected Population Deviation Rate)などといいます。

この点、先の部長決裁の統制について、(過去に何度か行った監査の実績で)「サンプル25件中に1件も逸脱がなかった」いう程度の情報では、「母集団の逸脱率は判明していない」ということを申し添えます。言い換えると、この場合は、「逸脱率は恐らく9%未満だろう」ということ位しか分かっていないのです。「逸脱率を知っている」という意味は、(部長決裁の統制の例で考えると)過去の監査の結果から、予想逸脱率(期待値 又は 平均値)が6%であることが分かっているような場合を意味します。

このように、母集団の予想逸脱率が分かっているケースでは、監査人が予想逸脱率を考慮して(サンプル中に一定割合の逸脱が存在することを見越して)、サンプル件数を決めることになります。

予想逸脱率が6%と分かっている場合、25件のサンプルには平均1.5件(25件×6%)の逸脱が含まれていると予想されますので、(許容逸脱率を9%とすると)25件のサンプルでは不足します。また、42件のサンプル(1件だけの逸脱ならOK)を選んでも、平均2.5件の逸脱(42件×6%)が含まれていることが予想されますから、42件ではサンプル数不足です。

このように、サンプル数を増やすと(予想逸脱率に)比例して予想逸脱件数も増えていくので、(必要)サンプル数はどんどん増加していきます。結局この場合は、182件のサンプル(予想逸脱件数は11件)が必要となります。予想逸脱件数の11件は、「182件(サンプル数)×6%≒11件」に対応しています。

許容逸脱率:9%、信頼度:90%の前提で、予想逸脱率と必要サンプル件数の関係を示すと以下のようになります。なお、( )内は逸脱数です。

予想逸脱率:0%予想逸脱率:4%予想逸脱率:6%予想逸脱率:8%
25(0)
73(3)
182(11)
1,437(115)


【Excel関数による計算】


● 予想逸脱率が6%(逸脱件数:11件)のケース
 =BINOM.DIST(逸脱件数(=11), サンプル数(=182), 逸脱率(=0.09), TRUE)=0.09836

● 予想逸脱率が8%(逸脱件数:115件)のケース
 =BINOM.DIST(逸脱件数(=115), サンプル数(=1,437), 逸脱率(=0.09), TRUE)=0.099675


 したがって、予想逸脱率に関して以下のことが言えます。


③ 予想逸脱率が高いほど、サンプル件数は増加する。
④ 予想逸脱率が許容逸脱率に近づくほど、サンプル件数は増加する


25件のサンプルの話題を題材に、7回にわたり統計的サンプリングをとりあげましたが、今回で終了です。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

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