2013年1月26日土曜日

統計的サンプリング:25件のサンプル(1)

■ 25件のサンプル

公認会計士が会計監査を行う際に準拠すべきガイドラインとして、『財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準』(以下、実施基準)があります。この実施基準の中には、以下のような記述があります。

日常反復継続する取引について、統計上の二項分布を前提とすると、90%の信頼度を得るには、評価対象となる統制上の要点ごとに少なくとも25 件のサンプルが必要になる。

これは、母集団(Population)から一定の方法で標本(Sample)を抽出するサンプリング(Sampling)という手法を前提とした考え方です。上記は、サンプリングの中で統計的な手法を用いて行うサンプリング(統計的サンプリング)を前提としたものです。

今回から数回にわたって、25件のサンプルを題材に、統計的サンプリング(Statistical Sampling)について考えていきたい思います。


■ 統計的サンプリング(Statistical Sampling)

統計的サンプリング(Statistical Sampling)とは、母集団からサンプルを統計学的に適正な方法(無作為抽出等)で抽出し、(母集団の代わりに)サンプルを詳細に検討することによって、母集団の性質を推定する方法です。統計学的に適正な方法というのは、なかなか説明が難しいですが、一般的には、ランダムサンプリング(無作為抽出)をイメージすればよいと思われます。


会計監査では、通常、会社が行ったすべての取引を検討(監査)することはしませんし、そもそも時間的にもできません。そこで、取引の中から一定の取引を抽出して検討するという「試査」という方法が用いられます。会計監査(試査)では、統計的サンプリングの他、非統計的サンプリングやサンプリング以外の手法も幅広く利用します。統計的サンプリングというのは、試査の一つの手法といえます。


■ サンプル(Sample)とバイアス(Bias)

統計的サンプリングと非統計的サンプリングでは、サンプルを抽出する手法に違いはありますが、いずれも母集団の代表(Representative)としてのサンプルを選ぶという点では変わりありません。

母集団の代表という概念を説明するために、
監査から少し離れて、大学生の出身地に関するサンプルを考えます。A大学の学生の出身地を調査するため、毎朝、1限目の授業が始まる前に校門の前に30分間立って、出身地のアンケートを1週間とったとします。このようなサンプリング方法は適切でしょうか?

実は、このようなやり方は、サンプリング手法としては望ましくありません。なぜなら、1限目の授業を履修していない学生は、そもそもサンプル対象から除かれてしまっている可能性が高いからです。その結果、集めたサンプルが母集団の代表(Representative)となっておらず、相当偏ったものになっている可能性があります。このようなサンプリングの方法は、統計的サンプリングか非統計的サンプリングかという以前の問題として、望ましくないということになります。



このように、サンプリングの手法によっては、相当のバイアス(Bias)が生じるケースがあるので注意が必要です。このバイアスは、後に出てくる誤差(Error)とは本質的に異なるものです。統計的サンプリングは、誤差(Error)を完全に除去できませんが、サンプリングにおけるバイアスを除去する手法として使われます。


「なぜ25件なのか?」、「二項分布とか90%の信頼度とは何なのか?」ということについては、次回以降順次とりあげることとして、今回はここで終了とします。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

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