■ 25件中、1件逸脱(承認漏れ)があった場合
前回説明したように、ある事象が起きる確率をPBとした場合、試行をn回行って、ある事象がx回起こる確率をPB(x)とすると、確率PB(x)は以下のように表すことができました。
PB(x)=nCxpx(1-p)n-x |
2項分布の確率計算で、1件の逸脱(承認漏れ)が出る確率PB(1)は、以下のように計算されます。
PB(1)=25C1 ×(0.09)1×(1-0.09)25-1 =25C1 ×(0.09)1×(0.91)24≒23.40%
(許容)逸脱率9%の場合、25件中1件の逸脱(承認漏れ)が生じる可能性は約23%となるので、1件でも承認漏れがあったら、「90%以上の信頼度で逸脱率が9%以下である。」とは、残念ながら言えないことになります。
この場合、2つの対応が考えられます。1つは、サンプル数を増やしてもう1回検討する方法、もう1つは、逸脱率が9%を超える統制(=弱い統制)という前提で監査を進める方法です。後者は簡単にいえば、内部統制にあまり頼らずに、(試査範囲を広げて)監査を行うということです。後者は監査実務固有の話になるので、今回は前者の(サンプル数を増やす方法)を取り上げます。
■ 1件承認漏れがある場合の必要サンプル数
1件承認漏れがある場合、以下のようなサンプル数(n)を求めればよいことになります。
二項分布を前提として承認漏れが1件見つかった場合、90%の信頼度を得るには、少なくともn 件のサンプルが必要になる。
ここでは仮にサンプル数を40件とします。すると、1件の承認漏れがある確率は、n=40として上の式を使って計算すると、約9.10%となります。そうすると、あと、15件(40件-25件)追加サンプルを選んで、15件中1件も逸脱がなければ、一見良さそうな気がします。しかしこれは間違いです。
というのも、この9.10%というのは、「40件中ちょうど1件の逸脱が発生する確率」であって、「40件中1件以下の逸脱が発生する確率」ではないからです。すなわち、計算においては40件中1件も逸脱が発生しない確率も考慮しなければならないのです。
ここで、n件中1件も逸脱が生じない確率をPB(0),1件逸脱が発生する確率をPB(1)とすると
PB(0)+PB(1)<10% となるように、サンプル数を決定する必要があるのです(ちなみに符号は、≦,<のどちらでも構いません。)
この場合の最小サンプル数を計算すると42件となります。したがって、追加で17件(42件-25件)サンプルを選び、追加サンプルに1件も逸脱(承認漏れ)がなければ、90%以上の確率で(母集団の)逸脱率は9%以下であると判断できることになります。
■ 逸脱(承認漏れ)が2件以上の場合 ☛ 計算は複雑化
逸脱が1件程度なら何とかなりますが、2件、3件と増えて行った場合(監査上どう取り扱うかは別にして)、その分沢山のサンプルが必要となります。仮に、逸脱が3件まで許容できるとした場合、PB(0)+PB(1)+PB(2)+PB(3)<10%となるように、サンプル数を決定しなければなりませんから、手計算では煩雑になります。
上記の(累積)確率をExcel関数を使って計算する場合、計算式は以下のようになります。
=BINOM.DIST(逸脱件数, サンプル数, 逸脱率(0.09), TRUE) |
ただ、上記のExcel関数を使ったとしても、試行錯誤を行って10%の危険率(90%の信頼度)を満たすようなサンプル数を見つける必要がありますので、計算はやや煩雑となります。
今回はここまでとします。
次回は、「二項分布」と「正規分布」との関係の説明と今まで(1回〜6回)のまとめをしたいと思います。
清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office)
こんにちは!
返信削除Excelの計算式が間違っているようです。
誤:=BINOM.DIST(逸脱件数...
正:=BINOMDIST(逸脱件数...
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返信削除ご指摘ありがとうございます。
返信削除”BINOM.DIST"でなく、"BINOMDIST"(ピリオドが不要)ではないかというご指摘ですが、 ”BINOM.DIST"関数(ピリオド付)のほうは、Excel2010以後採用された関数らしく、"BINOMDIST"関数(ピリオドなし)と基本的に同じようです。
手許のExcelで両方の関数形式で計算してみましたが、同じ計算結果となりました。
http://office.microsoft.com/ja-jp/excel-help/HP010335671.aspx?CTT=5&origin=HP010335634