2013年2月24日日曜日

統計的サンプリング:25件のサンプル(4)

今回は前回までの話を前提に、2項分布(Binomial Distribution )を取り上げます。

■ 2項分布の基礎

2項分布(Binomial Distribution)とは、例えば「コインを5回投げて表が2回以上出る確率」とか、「サイコロを10回投げて1回も1の目が出ない確率」のように、結果が2通り(成功 or 失敗)しかないような確率分布です。コインであれば"表"or"裏"、サイコロであれば"1の目が出る"or"1の目が出ない"の2通りの結果しかありませんので、2項分布となります。

ここで少し前提知識をお話します。コインやサイコロを投げることを「試行」といいます。このとき、


① 試行の結果は、ある事象が起こるか起こらないかの2通りである。
② 個々の試行の結果は、独立(お互いに影響を受けない)である。 

という条件を満たす試行のことベルヌーイ試行といい、2項分布はこのベルヌーイ試行の確率分布となります。

ここで、ベルヌーイ試行の例として、サイコロを10回振る例を考えます。サイコロを振って1の目が出る確率は1/6,1の目が出ない確率(1以外の目が出る確率)は5/6です。前述のとおり、この試行では「1の目が出る」か「1以外の目が出るか」のいずれかとなるので、2項分布に従います。また、9回目までに1の目が何回出たか(あるいは出なかったか)にかかわらず、10回目に1の目が出る確率は1/6です。すなわち、サイコロを振る例は、上記の①、②の条件を満たす試行と言えます。

一般に、ある事象が起きる確率をPBとした場合、試行をn回行って、ある事象がx回起きる確率をPB(x)とすると、確率PB(x)は以下のように表すことができます(Cは組み合わせを示す記号です。)



B(x)=nxx(1-p)n-x

10回サイコロを振って、1回も1の目が出ない確率をPB(0)とすると、PB(0)は以下のように計算できます。Cは組み合わせを示す記号ですが、1回も1の目が出ない組み合わせというのは、1通りしかありませんので、100=1です。
 
   PB(0)=100 ×(1/6)0×(1-1/6)10-0 =1×(1/6)0×(5/6)10≒16.15%

 
これでようやく準備が整いましたので、本題の解釈に入ります。



■ 母集団の逸脱率 ≠ サンプルの逸脱率


日常反復継続する取引について、統計上の二項分布を前提とすると、90%の信頼度を得るには、評価対象となる統制上の要点ごとに少なくとも25 件のサンプルが必要になる。

この文章は、「サンプルが25件必要」ということを意味していますが、逆に「25件のサンプルを選んだら何が言えるのか?」ということを考えた方が分かりやすいので、サンプル数の方を基準に考えます。ここで、先程のサイコロを振る例を「統制」の話に置き換えます。サイコロの確率は以下の計算式で計算できました。


B(x)=nxx(1-p)n-x

今回の統制のケース(25件のサンプル)では、上記の式でn=25, x=0と置き換えれば良いのです。しかしサイコロの目と違って、「取引全体の中で部長承認のない本当の確率」(=p)は分かりません。そこで、監査にあたっては、逸脱率(=p)に関する仮説を立てる(=ハードルを設定する)ことになります。

ここでは、「部長承認のない取引が取引全体の9%であれば、(監査上)許容できる」と考えたとします。言い換えると、「全体の9%程度について部長承認がなくても、この統制は一応有効である」と監査人(公認会計士等)が判断しているということになります。この9%を許容逸脱率(Tolerable Rate of Deviation)と言います。

この”許容逸脱率(9%)”というのは、母集団全体で許容される逸脱率の想定であって、サンプル(25件)の逸脱率とは無関係です。この時点では、監査人はサンプル中には逸脱が「ない」と想定しているのです。なお、サンプルに逸脱があるケースや、監査人が逸脱を想定しているケースは別途扱います。また、許容逸脱率は、母集団の逸脱率(予想)とも無関係であり、監査人が自ら設定する基準です。

■ 25件のサンプルから言えること

9%の許容逸脱率という想定の下、監査人が25件のサンプルを抽出・検討した結果、25件すべてが部長承認されていたとします。この場合、25件すべてに部長承認がある確率(1件も承認漏れがない確率)は以下のように計算できます(1件も承認漏れがない組合わせというのは、1通りしかありません。すなわち、250 =1です。)

  PB(0)=250 ×(0.09)0×(1-0.09)25-0 =250 ×(0.09)0×(0.91)25=1×(0.91)25≒9.46%

ちなみに、上記の計算をExcelの二項分布の関数を使って計算すると、計算式は以下のようになります。



=BINOM.DIST(0, 25, 0.09, TRUE) 

9%を許容できる逸脱率(承認漏れ率)と想定すると、逸脱(承認漏れ)が25件中1件もない確率は9.46%と計算されます。逆に、25件中1件以上逸脱がある確率は、90.54%(100%-9.46%)ということになります。

上で述べた結果はどのように解釈できるでしょうか。(許容)逸脱率を9%とすると、25件中1件も逸脱がない可能性は、かなり低い確率(約9.5%)と言えます。ということは、実際の逸脱率はもっと低いのではないか(=当初設定した9%という逸脱率が高すぎたのではないか)という解釈になります。

一方、(25件より少ない)20件のサンプルを選んだ場合、1件も逸脱がない確率は約15.2%と計算されます。こちらはさほど珍しい確率とは言えませんので、「当初設定した9%という逸脱率」を否定することはできません。なお、サンプル数が30件の場合に1件も逸脱がない確率は約5.9%、サンプル数が24件の場合には約10.4%と計算されます。


サンプル数 
逸脱件数 
確率 
信頼度90%の基準 
20件
 0件
15.2% 
NG
 24件
 0件
10.4% 
NG 
 25件
 0件
 9.5%
 OK
 30件
 0件
 5.9%
 OK

ここで、「1件も逸脱が起こらない確率」がピッタリ10%となるようなサンプル数(n)を考えます。これが、信頼度90%を満たすサンプル数となります。上記の表で見ると、25件の場合は90.5%(100%-9.5%)ですが、24件の場合は89.6%(100%-10.4%)なので、"24件<n<25件"となります。サンプル数は自然数なので、90%の信頼度を満たすサンプル数は25件となります。すなわち、90%の信頼度に照らすと、サンプル数が25件以上あればOK、24件以下ではNGとなります。

もちろん、サンプル数を30件選んで1件も逸脱(承認漏れ)がなければ、信頼度が94.1%(100%-5.9%)となりますので、監査上はより望ましいと言えます。しかし、最低25件のサンプル数があれば(そしてサンプル中に逸脱が1件もなければ)、90%の信頼度で(部長の承認という)統制の有効性が判断できることになります。

これが、25件のサンプルの意味です。 少し長くなりましたので(途中ですが)、今回はここまでとします。

次回は25件のサンプルについて、もう少し話を進めたいと思います。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年2月20日水曜日

相続税改正の方向性(税制改正大綱)


今回は、先月下旬に決定された平成25年度の『税制改正大綱』から相続税の改正に関する話題です。

✓ 改正の概要と影響

後述の通り、小規模宅地等に関する軽減措置は拡充されましたが、基礎控除の縮小、財産評価額の高い部分に関する税率アップが行われており、全体としては増税の方向で改正がなされました。特に、税率アップと基礎控除の縮小により、富裕層の方々にとっては相続税負担は増えるものと考えられます。

以前の記事で、課税割合(相続発生した件数のうち実際に相続税が発生する件数)が4%程度であると説明しましたが、今回の改正によって、課税割合が約6%に上昇すると試算されており、課税ベースの拡大が行われています。現行税制では相続税の負担がなかった方達について、今回の税制改正によって、相続税を負担するケースも増加すると考えられます。


以下、改正内容の概要を記載します。

✓ 基礎控除の縮小

基礎控除には、定額控除と法定相続人数に比例する比例控除がありますが、今回の改正で、双方ともに控除が縮小されています。本改正は、平成27 年1月1日以後の相続又は遺贈から適用開始予定です。



✓ 税率の変更(高額部分の税率アップ)

従前の6段階の税率(最高税率50%)から8段階税率(最高税率55%)へ細分化されています。また、課税価格(相続人一人当たり)が2億円以上になる場合は、実質増税になっています。本改正は、平成27 年1月1日以後の相続又は遺贈から適用開始予定です。


✓ 小規模宅地の評価減特例
 
居住用小規模宅地について、面積限度が330㎡(100坪)まで拡充されています。また、二世帯住宅や介護等による一時非居住の扱いについても、適用要件が緩和されています。

面積限度の緩和は、平成27 年1月1日以後の相続又は遺贈から適用予定、一方、二世帯住宅と一時非居住に関する改正は、平成26 年1月1日以後の相続又は遺贈から適用開始予定となっています。













介護等による一時非居住の扱いについては現行、国税庁の質疑応答事例『老人ホームへの入所により空家となっていた建物の敷地についての小規模宅地等の特例』において、次のような4条件が指針として示されています。

(1) 介護が必要なため入所したこと。
(2) 帰宅後いつでも生活できるように建物の維持管理がなされていること。
(3) その建物を他人の居住用やその他の用途に供していた事実がないこと。
(4) 入居した老人ホームの所有権や終身利用権が取得されていないこと。

今回は以上です。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年2月13日水曜日

サンプルは母集団の代表か?(閑話休題)

しばらく、統計学のやや込み入った話が続いていますので、今回は「25件のサンプルの話」から少し離れた話題を取り上げます。

第1回目で、サンプルが母集団(Population)の代表とならない(偏ったサンプルの)例として、毎朝校門の前で行う大学生の出身地のアンケート調査を取り上げました。今回は、偏ったサンプルとして有名な、米国の大統領選挙の例をご紹介します。


■ 1936年 大統領選の予想

1936年の米国大統領選挙は、フランクリン・ルーズベルト(民主党)  とアルフレッド・ランドン(共和党)の一騎打ちとなりました。当時、大手雑誌であった「リテラリー・ダイジェスト」は、230万人の世論調査を行い、ランドンの当選(ルーズベルトの落選)を予想しました。

しかし、予想に反してルーズベルトが再選を果たしたのです。「リテラリー・ダイジェスト」の予想はなぜ外れたのでしょうか? この理由としては、「リテラリー・ダイジェスト」が選挙予想に用いたサンプルに問題があったと考えられています。


■ 偏ったサンプル

選挙が行われた1936年といえば、1929年に始まった世界大恐慌の最中です。このような厳しい経済情勢下で、「リテラリー・ダイジェスト」を購読している読者層というのはかなりの富裕層であったはずです。同社は選挙の予想に際して、購読者名簿を利用するとともに、電話や車を持っている人達も対象として(サンプル)調査を行いました。電話を持っている人には、電話による聞き取り調査が行われたようです。しかし、当時の電話の普及率は40%程度でしたから、電話を持っている層は主に富裕層だったはずです。さらに、車の所有者となればさらに裕福な人達だったはずです。結局、購読者を含め、富裕層を中心としたサンプルが集められたわけです。

「リテラリー・ダイジェスト」はこうした方法によって230万人もの膨大なサンプルを集め、このサンプルに基づいて当落予想を行いました。しかし、いくら沢山のサンプルを集めたといっても、同社が集めたサンプルは大半が富裕層という偏ったものでした。そして、富裕層には共和党支持者が多かったため、ランドンに有利な(ルーズベルトに不利な)調査結果になってしまったというわけです。集めたサンプルが米国の有権者(母集団)を代表していなかったわけです。


■ ギャラップ調査

これに対し、ルーズベルト再選を予想した会社がありました。ギャラップ調査で有名な「ギャラップ」社です。ギャラップ社は、サンプルの偏りが少なくなるように科学的方法を用いました。すなわち、所得、居住地、性別などの項目ごとに有権者を幾つかの(重ならない)グループに分けて、かつ、サンプルが偏らないようにして調査を行ったのです。結果、「リテラリー・ダイジェスト」社の1%にも満たないサンプル数で、的確な予想を行うことができたのです。

この結果を受け、ギャラップ社は一躍脚光を浴びることになり、以後、ギャラップは世論調査の代名詞となりました。一方、予測を外した「リテラリー・ダイジェスト」の評判は失墜し、経営難に陥った後に他社に買収されてしまいました。

「サンプルを何件集めるか」ということも重要ですが、(1)母集団を代表する(偏りのない)サンプルをどのような方法で集めるのか、あるいは、(2)集めたサンプルが本当に母集団を代表しているのかということも、非常に重要な検討項目です。

今回は以上です。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年2月10日日曜日

統計的サンプリング:25件のサンプル(3)

第1回目、第2回目と、「実施基準」の中の以下の記述についてとりあげました。

日常反復継続する取引について、統計上の二項分布を前提とすると、90%の信頼度を得るには、評価対象となる統制上の要点ごとに少なくとも25 件のサンプルが必要になる。

これは、25件サンプルを選んで、そのすべてについて部長決裁が得られていれば、概ねこの統制は有効であると統計的に判断できる」ということを意味している、と説明しました。上記の文章の「統制上の要点」とは、「部長決裁に関する統制が有効か否か」ということです。

今回は、上記文章の統計的意味についてもう少し触れたいと思います。


■ 標本(Sample)から母集団(Population)を推定する

標本を抽出するのは、標本自体に関心があるからではなく、(標本が含まれる)母集団の性質を知りたいからです。先の例では、①部長決裁が必要なすべての取引(母集団)について、②全取引(母集団)から標本(サンプル)を抽出し、③標本について部長決裁が行われていることを確認することで、④部長決裁が必要なすべての取引(母集団)について、統制が適切に機能している(部長決裁が確実に行われている)ことを知りたいわけです。

①~③はある意味機械的な作業ですが、④には判断が伴います。抽出した標本の中に1件も承認漏れ(逸脱:Deviation)がないからといって、母集団全体について統制が機能していると言えるのでしょうか? 


■ 統計的(仮説)検定 ☛ 否定することに意味がある
   

ここで、統計的仮説検定という概念が登場します。この仮説検定(以下、検定)は、母集団についてある仮説を立て、その仮説を検証する方法です。仮説を検証する流れとして、通常思い浮かぶのは以下のような流れでしょう。

  
   
【通常考えられる仮説検証の流れ】

仮 説:「 部長決裁が適切に行われている」という統制は有効に機能している。
                ⇓
検 討:サンプルを抽出し、実際に部長決裁が行われているどうか調べる。
                ⇓
判 断:上記の調査結果によって、仮説の正否を判断する。

ところが、統計学の仮説の立て方というのは独特なものがあって、上記とは少し違う流れを辿ります。すなわち、統計学では証明したいことの反対の仮説を立て、この仮説を否定するという発想をするのです。

今回、証明したいことは、「統制が有効である』ということですから、証明したいことの逆、すなわち、『統制は有効に機能していない』という仮説を立て、この仮説を否定することを考えます。統制が有効かどうかの基準は監査人の判断によりますが、ここでは、逸脱率(承認漏れの確率)が『9%以内か9%を超えるか』で判断するとします。すなわち、「『統制は有効に機能していない(=逸脱率は9%超である)』という仮説を否定することを検討します。何だか迂遠な感じがしますが、このあたりが統計学独特の考えというか、最初は馴染みにくい考え方だと思われます。

  
   
【統計学上の仮説検定の流れ】

仮 説: 統制は有効に機能していない。すなわち、逸脱率が9%を超えている。
          ⇓
検 討:サンプルの抽出と調査を行う。
            ⇓
判 断:仮説を否定(棄却)する(または、否定(棄却)しない。)  

つまり、逸脱率が9%を超えているという仮説は否定されてこそ意味を持つことになります。そのためには、仮に(上限)逸脱率を9%と仮定してその確率を計算し、その計算結果(確率)が十分に小さければ、最初に立てた仮説(逸脱率が9%超)が適切でなかったという論法になります。

例えば、(新)薬の効能の判定においても、この仮説検定の考え方が用いられます。すなわち、①新薬は効かない(又は従来の薬の効能と大差はない)という仮説(帰無仮説)を立て、②この帰無仮説が棄却できれば、③「新薬の効能はある(又は従来の薬よりも新薬の方が効能が高い)」という対立仮説を採択することができるという流れです。


 
■ 仮説の設定と統計上の誤り ☛ 所詮は確率の話なので、誤りは付き物

先に述べたように、検定では証明したいこと(対立仮説といいます。)に対して、否定したいこと帰無仮説といいます。)を仮説として立て、検証します。

● 対立仮説 H1(Alternative Hypothesis):統制は有効に機能している(=逸脱率が9%以下である。)
      ☛ この仮説は積極的に証明しない。

● 帰無仮説 H0(Null Hypothesis):統制は有効に機能していない(=逸脱率は9%超である。)
      ☛ この仮説を棄却しようと考える。

 
ここで、帰無仮説(H0)が棄却(否定されると)、間接的に対立仮説(H1)が証明されるということになります。しかし注意しなければならないのは、帰無仮説(H0)が棄却されたといっても、積極的に対立仮説(H1)が証明されたわけではないということです。「統制は有効に機能していない(逸脱率が9%超である)」という証拠は見つからなかったので、暫定的に、「統制は有効である」という仮説が採択されたに過ぎないのです。

一方、帰無仮説(統制は有効に機能していない)が棄却されなかった場合はどうなるでしょうか?この場合は、実は何も言えないに等しいのです。この辺りの話になると、込み入ってくるので詳細は割愛します。

さて、仮説を証明するといっても、標本から母集団の推測を行うわけですから誤差(Error)が生じます。要は、サンプルを沢山調べて、仮に1件の承認漏れがなかったとしても、全取引が同じように部長決裁を得ていることは断言できないわけです。

実際には、次のような2つの誤りが生じる可能性があります。

① 対立仮説(H1)が正しいのにこれを棄却して、帰無仮説(H0)を選択してしまう誤り
    = 本当は統制は有効に機能しているのに、統制が有効でないと判断してしまうこと

② 帰無仮説(H0)が正しいのにこれを棄却して、対立仮説(H1)を選択してしまう誤り
    = 本当は統制は有効に機能していないのに、統制が有効であると判断してしまうこと

①は「正しくないものを正しいと判断してしまう誤り」ですから、会計監査においては深刻な間違いになります。これは、監査の有効性に関するリスクとなります。

一方、②は「本当は正しいのに正しくないと判断してしまう誤り」です。監査においては①ほど深刻ではありませんが、(追加的な監査手続きが必要になるため)監査の効率性に関するリスクとなります。

少々長くなりましたが、今回はここまでとします。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年2月6日水曜日

相続税の調査統計(国税庁報道発表資料)

昨年11月、国税庁から相続税に関する(税務)調査実績に関する統計資料が公表されました。今回はその内容を簡単にご紹介したいと思います。


✓ 1年間の税務調査の実績

国税庁の平成23事務年度(平成23年7月から平成24年6月までの間)に行われた(相続税)税務調査の件数は13,787件、このうち申告漏れ等の非違件数(修正申告等が必要な件数)は11,159件で、非違割合は80.9%となっています。また、申告漏れ課税価格(総額)は3,993億円、1件当たり2,896万円となっています。これらの実績数値は前年数値とほとんど変わりはありません。

上記のデータから見ると、相続税の税務調査を受けると、約8割のケースで修正申告が発生し、平均で3,000万円位の申告漏れが指摘されていることが読み取れます。


✓ 申告漏れが指摘された3大相続財産 ☛ 現金・預貯金、有価証券、土地  

申告漏れ相続財産の内訳は、①現金・預貯金等1,426億円が最も多く、次に②有価証券631億円、③土地630億円の順番となっています。特に、現金預金の申告漏れが最も多く指摘されていますので、手許現金や預金口座の漏れがないように申告することが重要となります。


✓ 海外財産、無申告事案の調査強化

昨今の資産運用の国際化に対応して、海外資産の調査も重視してきています。年間調査件数は741件ほどですが、1件当たりの申告漏れ額は約6,500万円と全体平均(2,896万円)に比べて多額になっています。

また、自主的に申告した納税者との間の公平性を確保するため、相続税の無申告案件に対する調査にも力を入れています。特に、平成22事務年度から無申告に関する調査件数が急増しています。



  
今回の調査結果から読み取れること、必要な準備など

■ 申告漏れの原因は?

今回の調査結果を見る限り、どのような原因で申告漏れが生じているかは定かではありませんが、以下のような理由により申告漏れとされたケースが多いのではないかと推察されます。

 ● 現金・預貯金 ☛ 単純な失念、名義預金の存在
 
 
 ● 有価証券 ☛ 単純な失念、名義株の存在、非上場株式の評価の誤り
 
 
 ● 土地 ☛ 単純な失念(遠隔地の土地等)、特例等(小規模宅地や広大地など)の適用誤り

財産の申告漏れを極力少なくするためには、申告に際して相続財産について十分な棚卸を行う必要があります。相続直前に預金を引き出している場合、手許現金として申告財産に含めることも必要です。また、名義預金や名義株式については、事前にその有無を確認し、相続発生前までに(可能な限り)整理を行っておくことが必要です。

■ 無申告にならないように注意

前述のとおり、相続税無申告に対する調査も急増していますので、事前にある程度の試算をして、申告が必要か否かを検討しておく必要があります。

2013年2月3日日曜日

統計的サンプリング:25件のサンプル(2)

今回は、25件のサンプルに関連して、背景にある会計監査の前提について簡単に説明したいと思います。


■ 内部統制の信頼性

前回取り上げたとおり、会計監査は「試査」をベースにして行います。この「試査」の前提となるのが、「内部統制」といわれる会社の管理上の仕組みです。簡単にいえば、様々なチェック機能です。内部統制がしっかり機能している場合、会計処理の間違いはほとんどありません。というのも、たとえどこかで(誰かが)間違った処理をしたとしても、途中で他の人やシステムが気付いて、間違いが修正されるからです。

一方、内部統制が機能していない場合には、間違いが発生しても修正されずに放置される危険性が高くなります。その結果、財務諸表が間違っている危険性も高くなるわけです。

内部統制が機能していない ⇒ 間違いの発生・放置 ⇒ 財務諸表の信頼性が低い可能性

ということは、内部統制が弱い会社の場合、内部統制が強固な会社よりも、より注意深く監査を行う必要があるということになります。例えば、サンプル件数を増やすといったことが必要となります。これを試査範囲の拡大といいます。試査範囲を拡大すると、監査手続きが増え、作業工数(時間数)が増大することになります。このように、監査(試査)は内部統制(の信頼性)に大きな影響を受けることになります。


■ 内部統制の信頼性とサンプリング

監査の前提となる内部統制の信頼性(有効性)を検討するために、内部統制の運用状況のチェック(Test of Controls)を行うことになります。その手法の一つが統計的サンプリングです。


具体例を挙げて説明しましょう。例えば、『100万円以上の取引については、部長決裁が必要である』という会社のルールがあるとします。これは(内部)統制の一つですが、この統制が実際に機能しているかどうかをチェックする場合を考えます。もっとも、実際に監査でチェックするのはこのような単純な統制であるケースは少なく、あくまで説明のための例に過ぎません。

この統制が有効に機能しているか否かを判定するためには、100万円以上の(部長決裁が必要な)取引すべてについて、「本当に部長決裁があるかどうか」を調べばよいのですが、とても全取引件数を調査することはできません。

そこで、サンプルをランダムに選ぶという方法で、調査を行うことになります。サンプルを10件、20件、50件、100件、500件・・・と増やしていけば、より的確な判断ができるようになるでしょう。 検討すべき統制が1つだけで、かつ、統計的サンプリングだけで監査が終了すれば1,000件でも2,000件でもサンプルをとって検証するのも良いでしょう。しかし、他にも検討すべき(サンプリングが必要な)統制はいくつもあります。さらに、統計的サンプリングは所詮監査の中の一つの手続きに過ぎず、他にもやるべき監査手続が沢山あります。こうした中で、(部長決裁という)一つの統制チェックだけのためにサンプルを沢山集めて検証することは時間的にも不可能ですし、仮にできたとしてもあまり意味もありません。

かといって、2~3件サンプルを選んで、すべて部長決裁があったからといって、この統制は有効だと考えるのもちょっと問題がありそうです。そこで、多すぎず少なすぎず、必要十分なサンプル数は何件なのか、ということが重要になるわけです。

ということで、実施基準では、「25件サンプルを選んで、そのすべてについて部長決裁が得られていれば、概ねこの統制は機能していると統計上判断できる」ということを示しているのです。


■ 25件のサンプルとありがちな勘違い

25件のサンプルについてのありがちな勘違いを紹介します。

サンプルを25件選んで調査したところ、1件の承認漏れが見つかった。承認漏れの割合は4%(25件中1件)だから、「統制」は96%(100%-4%)有効に機能していると考えられる。したがって90%以上の信頼性をもって、「統制」が機能していると解釈した。

上記の解釈がなぜ誤りなのかについては、次回以後の説明で明らかになります。

今回はここまでとします。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office