2013年12月26日木曜日

相続税改正の影響試算と今後の対応

1.はじめに

平成27年1月1日以後の相続から、基礎控除が3,000万円(定額控除)、600万円(比例控除)にそれぞれ引き下げられます(以下の図表参照)。また、相続税率も最高税率がアップするなど、相続税の税負担は増加すると考えられます。

そこで今回は、相続税の改正による影響を簡単なケースで分析し、今後の注意点を検討してみました。








2.二次相続を考慮した税負担の試算の必要性

 
相続には一次相続二次相続があります。

一次相続とは、例えば、(財産を持つ)夫が亡くなり、妻(又は子)が夫の財産を相続するケースを意味します。一次相続の場合、仮に夫にかなりの財産があっても、実は、「配偶者控除」を使うことによって税負担はかなり軽減されます。

ところが、夫の財産を相続した妻から子への相続である二次相続の場合、配偶者控除が使えませんので、税負担は高くなります。一次相続と二次相続を経て、親の代の財産が子の代へと受け継がれることになりますから、相続税負担の試算では、一次相続と二次相続の双方を考慮する必要があるわけです。


3.ケースによる税負担の試算

遺産総額が1億円(債務控除後の純額)の場合で、妻と2人の子供を相続人とする相続を考えます。現行制度と税制改正後の税負担は以下のとおりとなります。




まず、相続税の総額で見ると、295万円(395万円-100万円)増加しています。従来ほとんど相続税が係らない層にも、今後は比較的多額の相続税が課される可能性があるという傾向が読み取れます。

次に二次相続を検討します。二次相続では、夫から受け継いだ妻の財産(5,000万円)を2人の子供が相続することになります(単純化のため、妻固有の財産は考慮していません。)

現行税制では、基礎控除が7,000万円(5,000万円+1,000万円×2人)ありますので、妻の財産(5,000万円)は基礎控除の範囲内です。したがって、二次相続では相続税負担は生じません。言い換えれば、相続税という観点からは、基本的に一次相続のみを考慮すれば足りると考えられます。

ところが、改正後の基礎控除は4,200万円(3,000万円+600万円×2人)となりますから、妻の財産(5,000万円)は基礎控除を超えています。すなわち、二次相続(妻から子への相続)にも相続税が課されることになるのです。

さらに、財産が2億円になると、二次相続の負担が増えていくことが分かります。




さらに、相続財産が8億円の場合、二次相続の負担が一層高まることが読み取れます。



4.相続税改正から読み取れること、今後の対応

上記の簡単なケースから、相続税の改正に関して次の2つのことが読み取れます。

(1)二次相続の重要性

まず、二次相続の重要性です。もちろん、現行税制においても二次相続を考慮する必要性は高く、特に、財産総額が数億円を超えてくると、二次相続の負担を踏まえて相続税の試算や対策を行う必要があります。この点、税制改正による基礎控除の引下げと税率引上げによって、税率が比較的低い層の方々にとっても、二次相続の重要性は高まると言えるでしょう。


(2)負担感は、むしろ税率の低い層のほうが高い

次に、今まで相続税をあまり心配する必要のなかった方々(相続税がかからなかった、あるいは、多額の相続税がかからなかった方々)の実質的な負担の増加です。例えば、上記の8億円のケースでは、確かに税制改正による負担は上昇していますし、相続税総額も多額となっていますが、実質的な負担増(表最下段の「実質的な税率」の差)は、2.7%(30.1%-27.4%)となっています。

一方、実質的な負担増は1億円の場合3.0%(4.0%-1.0%)、2億円の場合は4.1%(10.6%-6.5%)となり、8億円の財産を持つ方よりもむしろ大きくなっています。1億円、2億といった相続財産を保有される方々のほうが、負担感はむしろ高くなるという見方もできるかもしれません。


5.おわりに

相続や事業承継において、相続税(対策)を過度に重視すると、近視眼的思考に陥り、本質を見失う可能性があります。まずは二次相続を含めた相続税の試算等や現状分析については、早めに準備しておく必要性は高いと考えられます。



清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office