2011年6月11日土曜日

概念フレームワーク(3)

前々回から複数回にわたって、IFRSを理解する上で重要な概念フレームワーク(以下、フレームワーク)の内容を扱っています。今回は財務諸表が提供する有用な情報の特性についてです。抽象的な概念が幾つも出てきてちょっと混乱しますが、できる限り整理して解説したいと思います。

★ 有用な情報の質的特性

経済的意思決定に有用な情報の質的特性とはどのようなものでしょうか?
フレームワークでは、有用な情報の基本的特性として2つの特性を挙げています。それは、①Relevance(目的適合性)と②Faithful Presentation(表現の忠実性)です。大雑把に言えば、①財務諸表利用者のニーズに合った情報(=目的適合性)が、②漏れなく・誤り無く・客観的に提供されること(=表現の忠実性)を意味します。

一方、基本的特性を補完する特性として、(イ) Comparability(比較可能性)、(ロ) Verifiability(検証可能性)、(ハ) Timeliness(適時性) (ニ) Understandability(理解可能性)という4つの条件が紹介されます(こちらは、次回扱います)。

原文では以下のように書かれています。

If financial information is to be useful, it must be relevant and faithfully represent what it purports to represent. The usefulness of financial information is enhanced if it is comparable, verifiable, timely and understandable.

 ■ Relevance(目的適合性)

財務情報が財務諸表利用者の経済的意思決定に役立つ場合、財務情報は目的適合的であるいいます。そのためには、財務情報が、①Predictive Value(予測的価値)と②Confirmatory Value(確認的価値)を持つことが必要となります。

簡単に言えば、財務情報が将来予測に役立つ情報(=予測的価値)や過去に行った判断の確認や修正に役立つ情報(=確認的価値)を持っているかどうか、ということです。予測的価値を持つ情報と確認的価値を持つ情報とは相互に関連していて、特に、予測的価値を持つ情報は確認的価値を併せ持っているとされます。すなわち、予測的価値を持つ情報は将来予測に役立つ一方、(これを)過去に行われた予測と比較することで、過去に行った予測の修正や改善に役立つことになります。

■ Faithful Presntation(表現の忠実性)

財務報告は経済的事象を忠実に表現することが求められますが、その要件として、①Completeness(完全性)、Neutrality(中立性)、Free from error(間違いが無いこと)が挙げられています。完全性とは、財務諸表利用者が必要とする情報がすべて含まれていることを意味します。中立性とはバイアスが無いことを意味します。

一方、「間違いが無い」ということは、財務情報がすべての面で正確であるということではありません。財務諸表作成プロセスに誤りが無いということを意味します。例えば、客観的な市場が無い資産の時価算定を考えます。このような場合、正確な時価を算定することは不可能です。だからといって、いい加減な評価をしてよいということではありません。様々な情報を入手して、可能な限り合理的な方法で時価を算定する必要があります。こうした時価算定プロセスが誤りなく適用されていることが必要となるのです。

■ 有用な情報を持つ財務諸表の作成プロセス

情報が有用であるためには、Relevance(目的適合性)とFaithful Presentation(表現の忠実性)の両方の要件を備えている必要がありますが、そのためには以下のような手順に従って、財務諸表を作成する必要があります。

 (1) 財務情報の利用者にとって有用となる考えられる経済的事象を特定する
 (2)情報が入手可能で、忠実に表現できるとした場合、当該経済事象と最も関連性のある情報を特定する
 (3)その情報が実際に入手可能で、忠実に表現できるかどうかを判定する

■ Materiality(重要性)

ここまで、情報の有用性の条件として①目的適合性と②表現の忠実性という概念を説明しました。今度は重要性という概念について説明します。会計実務や会計監査実務において、「重要性」という概念がしばしば登場しますが、一般的にはかなり分かり難い概念だと思われます。

もしその情報が欠落していたり、誤って表示されていたりすると、財務諸表利用者の意思決定に影響を与える場合、その情報は重要であると言います。

簡単な例を挙げましょう。総資産1,000億円、自己資本300億円、売上高2,000億円、当期利益が150億円という会社(A社)があったとします。A社の現金預金残高は財務諸表ではピッタリ100億円となっていますが、実は後からミスが発覚し、本当は100億10万円であることが分かりました。言い換えると、10万円だけ現金預金残高が過少になっています。これは、A社の財務諸表に間違いがあったことを示しています。しかし、このような間違いがあっても、A社の財務諸表の利用者の意思決定に影響を及ぼすことはないでしょう。このような場合、(財務情報に)重要性はないということになります。

上記の例は、恐らく万人が「重要性なし」と判断する例だと思います。しかし、実務ではかなり微妙なケースが出てきます。注意すべきなのは、(重要性の基準は)個々の会社によって異なるということです。重要か否かは、金額の大小や誤りの性質によっても異なるります。したがって、売上高や総資産等から自動的に「重要性の金額は〇〇円になる」などというわけにはいきません。

次回は、有用性を補完する特性である、(イ) Comparability(比較可能性)、(ロ) Verifiability(検証可能性)、(ハ) Timeliness(適時性) (ニ) Understandability(理解可能性)という4つの特性を取り上げます。