2013年3月31日日曜日

ホテリングの立地競争モデル(1)

今回は、以前の記事で登場した統計学、数理経済学の大家であるホテリング(Harold Hotelling:1895 –1973)についてとりあげます。今回取り上げるのは、ホテリングの立地競争モデルと呼ばれるものです。

■ 設例

下記の図のようなA点とB点を端点とする一直線の道(又は隣接する鉄道の駅)を考えます。この道(線路)沿いに、X社とY社がそれぞれ出店を計画しているとします。X社とY社はA-B間のどこに店を出店することになるでしょうか。但し、以下のような条件が付されているとします。


① 道(線路)沿いには同じ人口密度で住民が住んでいる。
② X社とY社以外に出店する可能性はない。
③ X社,Y社の商品は汎用品(あるいはまったく同一の商品)で、差別化されていない。
④ 住民は自宅から近い方の店に行く。
⑤ 店が自宅から等距離の場合、無作為に(確率50%で)どちらに行くかを決める。
⑥ X社とY社はお客をなるべく多く集めたい(利益の最大化をしたい)と考えている。
⑦ X社とY社はお互いの店の存在や目的(利益最大化目的)を知っている。


■ 海水浴場のアイスクリーム店

上記のように①~⑦まで色々な条件を付けたので少し混乱するかもしれませんが、例えば、A点,B点を両端とした海水浴場に店を出そうとしている2つのアイスクリーム屋を考えれば良いと思います。売っている品物も値段も同じ(条件③)とすると、お客さんはどちらか近い方の店に行き(条件④)、仮に等距離の場合にはランダムに(50%の確率で)どちらに行くか決めるでしょう(条件⑤。)また、2つのアイスクリーム店は、それぞれ同じ目的(=利益最大化)を目指して行動し(条件⑥)、お互いに相手の目的や立地場所を知っている(条件⑦)と考えられます。
  ①、②の条件はやや非現実的ですが、それ以外の条件(③~⑦)については、必ずしも非現実的とまでは言えないと考えられます。



■ 最適な出店場所

さて、X社とY社の例に戻ります。それぞれの最適な出店場所を考えるにあたって、まず、X社が先に出店するケースを考えます。下の図のようにX社がややA地点寄り(中心から左寄り)に出店した場合、Y社はどこに出店すればよいでしょうか。


 ここで、話を整理して考えるために、Y社はX社よりも常に右側(B地点側)に出店するとします。そうすると、X社の左側からA地点まで(←の矢印)については、X社がシェアをとります。一方、Y社の右側からB地点まで(→の矢印)については、Y社がシェアをとります。X社とY社の間は、ちょうど中間点を境に、X社とY社がシェアを分け合います。したがって、Y社はX社のすぐ右隣に出店するのが最適な戦略となります。



■ X社とY社の最適な立地場所

先にY社が出店した場合も同様です。結局、X社、Y社は隣接して出店することになります。また、X社、Y社は利益を最大化(シェア最大化)をしたいと考えていますから、それぞれA地点とB地点のちょうど中間地点に出店することになります。仮に、上の例のようにX社がA地点寄りに出店すれば、Y社がX社のすぐ右隣に出店することで、Y社の方より大きなシェアを獲得できるからです。結局、X社とY社は(A地点とB地点の)中間地点に隣接して出店することになるわけです。



そして、いったんこの均衡状態に達すると、X社,Y社ともに、これ以上出店場所を変更しようという動機が起こりません。なぜなら、仮にY社がA地点とB地点の中間に立地するX社から離れて出店しようすると、Y社のシェア(売上)はX社よりも少なくなってしまうからです。

上記の均衡は安定的であり、ゲーム理論でいうところの「ナッシュ均衡」に該当します。


■ 立地競争モデルの理論で説明できる事例

ホテリングのモデルで説明できるのは立地状況だけでなく、以下のような事例が考えられます。

① 2大政党のマニフェストが似通ってくること。(中道的な政党がより多くの支持を得ること。)
② 製品の性能や価格が似かよったものになっていくこと。

今回は以上です。次回も引き続き、立地競争モデル扱います。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

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