2014年6月2日月曜日

金融商品取引法の改正(新規上場後3年間、内部統制監査の免除)

1.はじめに

改正金融商品取引法が5月23日の参議院本会議で成立しました。
幾つかある改正内容の中で注目すべきは、株式公開(IPO:Initial Public Offering)を促進するため、上場から3年間は「内部統制報告書」の監査を免除することとされた改正です。施行日は「公布日から1年以内」となっています。


2.「内部統制」と「内部統制報告書監査」

 内部統制監査の対象となる「内部統制」とは、適切な財務情報(財務諸表)を開示するための社内の体制です。「内部統制」が有効か否かについて、(1)まず、経営者が内部統制の有効性を評価し、(2)その評価結果を公認会計士が監査することが義務付けられており、これが内部統制(報告書)監査といわれるものです。この内部統制(報告書)監査は、平成21年3月期決算から導入されました。


3.内部統制監査と小規模企業の負担

現行制度では、上場と同時に内部統制監査がスタートします。したがって、各種の上場準備作業と並行して内部統制監査に耐えられるだけの社内体制を作る必要があります。そのため、新規上場のハードルがかなり高くなっているという指摘がありました。さらに、こうしたハードルの高さ故、新規上場社数が伸び悩んでいるという面も否定できませんでした。

今回の改正で、上場後3年間は内部統制監査が免除されることになりました。その結果、上場時の企業の負担が軽減され、証券市場の活性化に寄与することが期待されています。


4.上場時に、内部統制が不要というわけではない

内部統制監査が免除されるからといって、上場時の内部統制がいい加減であってもよいということではありません。上場に際しては、証券取引所や主幹事証券会社によるかなり厳しい審査を受ける必要があり、(この審査には)内部統制の審査も含まれます。この上場時の審査をパスできるだけの内部統制が整備されていれば、(3年間は)内部統制監査を免除しても問題ないとされたのです。

ただ、すべての新規上場会社について内部統制監査が免除されるわけではなく、特に企業規模が大きく、社会・経済的影響力の大きな企業は除かれています。


5.二段構えの内部統制構築とスケジュール管理

新規上場時に内部統制監査が免除されることから、内部統制に関しては段階的構築・運用ができるようになりました。

第1段階(上場前)
主幹事証券会社や証券取引所の審査に耐えられる内部統制構築・運用

第2段階(上場後)
内部統制監査に耐えられる内部統制構築・運用 ☛ (1)の拡充

もちろん、第一段階、第二段階の内部統制は別物ではなく、第一段階の延長線上に第二段階があります。

注意すべきは、上場後というのは、大きな仕事をやり遂げたという達成感から、社内体制構築や運用が緩くなる危険性があります。そうした中で、再び気分を引き締めて、3年後に向けて(内部統制監査に耐えられる)内部統制の構築を行う必要があります。そのためには、公開後も気を抜かず、しっかりとしたスケジュール管理の下、内部統制の拡充を図ることが求められます。


6.内部統制監査の対象とならない「内部統制」も重要(=リスク管理)

 今回話題となっている「内部統制」は、主に、財務報告(財務諸表の作成・公表)に関する内部統制です。しかし、内部統制には、財務報告に直接関連しないものもあります。例えば、取引先(顧客)情報・個人情報等の重要な情報の管理、(メーカーであれば)、製品検査納期管理などがあります。

すなわち、内部統制監査の対象でない内部統制であっても、(会社の運営上は)同じように構築することが必要になるのです。すなわち、財務情報を含め、会社を取り巻くリスクを統合的に管理する内部統制が必要になるのです。

こうした内部統制全般を短期間に整備・構築することは困難です。したがって、内部統制の重要性を早い段階で認識し、リスクの大小に応じた優先順位をつけながら、段階的に構築していくことが必要になります。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office