2014年12月9日火曜日

ROAとROEの関係式

1.はじめに

「財務分析」や「コーポレート・ファイナンス」の書籍では、下記の(1)と(2)の関係式がしばしば登場します。






しかし、書籍の中では導出過程が記述されていないケースが多く、「意味が良く分からない」という声を時々耳にします。ということで、今回はこの式の導出過程を含めて、ROAやROEについても簡単に説明したいと思います。


2.ROAとROE

ROA(Return on Asset)は、総資産(総資本)事業利益率を意味します。ROA=事業利益(営業利益+受取利息・配当金)÷総資産(総資本)となります。ここで注意すべきは、総資本事業利益率における事業利益は、支払利息を控除する前の金額になるということです。

理由は、分母が「総資本=負債(他人資本)+(自己)資本」になっているからです。
企業は総資本(総資産)を使って利益を生み出しています。したがって、分母に対応する分子には、この総資本(総資産)が生み出す利益を対応させるというわけです。また、ROAの計算に用いる利益は通常、「税引前」利益となります。
 
一方、ROE(Return on Equity)は、自己資本利益率を意味します。ROEの場合、分子には当期純利益が来ます。この理由は、分母が自己資本であり、自己資本に対応させるべき利益は、支払利息を控除した当期純利益とするのが理論的だからです。なお、ROEの分子の当期純利益は税引前、税引後のいずれのケースもありますが、税金支払後の利益を株主に還元(配当)するという発想から、税引後利益を用いるケースが多くなります。

以上で、ROAとROEの簡単な説明を終えます。


3.記号の意味

まず、(1)式の関係からです。 は、税引前(Before Tax)のROEを意味します。:負債利子率、D:負債、E:自己資本です。

(2)式の は、税引後(After Tax)のROEを意味します。t :法人税率です。


4.式の導出

準備が整いましたので、(1)式の導出から始めましょう。
まず、次の5つ(①~⑤)の関係式を確認してください。簡便化のため、総資産(総資本)=Aと表記しています。

① ROA(総資産利益率)=事業利益÷総資産(A) ⇔ 事業利益=総資産(A)×ROA
② 総資産(A)=負債(D)+自己資本(E) ⇔ A=D+E
③ 支払利息額=負債利子率() × 負債(D) ⇔ 支払利息額 = i ×D
④ (税引前)当期純利益=事業利益-支払利息額 
                       ⇔ (税引前)当期純利益=事業利益-(i ×D
⑤ (税引前)ROE[ 自己資本利益率 ]=(税引前)当期純利益÷自己資本(E)

■ まず、②式を①式に代入します。 事業利益=(D+E)× ROA ・・・ ①´
■ 次に①´ 式を④式に代入します。 (税引前)当期純利益=(D+E)× ROA-(i  × D) ・・・④´
■ ④´式の両辺をEで割ります。
  ④´式の左辺が、(税引前)当期純利益÷自己資本(E)=(税引前)ROEになることに注意すると
   ROE ={(D+E)× ROA-(i  × D)} ÷ E
   ⇔ ROE =(ROA × E+(ROA-)× D} ÷ E となります。
   右辺をさらに整理していくと、ROE = ROA+(ROA-)× D/Eとなり、(1)が得られました。




(2)の導出は簡単で、税金を考慮するだけです。簡略化のため、税引後当期純利益をAT、税引前当期純利益をBTと表記します。

⑥ 税引後当期純利益(AT)=当期純利益(BT)-法人税額
⑦ 法人税額 = 税引前当期純利益(BT)× 法人税率( t

■ ⑦式を⑥式に代入すると、AT = BT-(BT × t)⇔ AT=BT(1-t)・・・⑥´ を得ます。

(1)式は税引前利益を表す式ですから、(1)式の両辺に(1-tを乗じれば、税引後利益を表す(2)式になります。
 




5.ROAと負債利子率の関係

再び(1)式を考えます。



(1)式のROA(総資本事業利益率)とi (負債利子率)に着目します。
まず、ROA> i の場合を考えます。この場合(ROA-i)>0ですから、D/Eが大きいほどROEが大きくなります。

すなわち、負債利子率を上回る総資本利益率が実現できれば、負債(借入金)を(相対的に)増やすことで、ROEが増大するということになります。負債をテコに利益率が上昇するということから、財務レバレッジと呼ばれます。

逆に、ROA<i の場合には、(ROA-i)<0ですから、D/Eが大きいほど、ROEが小さくなります。
すなわち、負債利子率に満たない総資本事業利益率しか上げられなければ、負債の(相対的な)増加によってROEが低下するということです。



清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2014年8月3日日曜日

耐用年数を考える(KDDIに関する報道から)

1.はじめに

新聞報道によると、携帯電話大手のKDDIが東京国税局の税務調査を受け、2013年3月期までの5年間に、約159億円の申告漏れを指摘されたとのことです。なお、追徴税額(更正処分)は、過少申告加算税や地方税などを含め約71億円(既に納付済)ですが、KDDIは国税局との見解の相違があるため、7月30日付で国税局に異議を申し立てたとのことです。


2.耐用年数を巡る見解の相違

今回の争点は、KDDIが保有する固定資産の「鉄塔の耐用年数が何年か」を巡るものと考えられます。鉄塔の耐用年数を21年と判断して減価償却を行っていたKDDIに対し、国税局は、耐用年数は40年であるべきと考えたようです。定額法償却の場合、耐用年数が21年の場合の償却率は0.048、一方耐用年数40年の場合は0.025ですから、凡そ2倍ほど減価償却費に差が出ます。

KDDIの保有している鉄塔はかなりの金額にのぼると考えられますので、耐用年数が21年か40年かによって、減価償却の金額(償却限度額)が大きく異なります。しかも、この差異が何年間も続くことから、上述のような大きな追徴税額に至ったと考えられます。


3.双方の主張する「耐用年数」とは?

新聞報道では詳細は分かりませんが、上記の争点である「耐用年数」の食い違いについて、少しひも解いてみたいと思います。

拙著、すらすら減価償却(中央経済社)の58頁以後に税務上の耐用年数の説明がありますが、税務上の耐用年数は、「耐用年数に関する省令」で事細かく決まっています。

「耐用年数に関する省令」が作られたのはかなり昔(昭和45年)で、その後何度も改正が加えられて現在に至っています。したがって、省令が作られた当初、想定していなかった(構造・機能・用途を持つ)減価償却資産については、耐用年数省令のどこに該当するのかという判定が難しいケースが実務上も多々あります。

さて、KDDIの「耐用年数は21年」という主張、国税局の「耐用年数は40年」とする主張ですが、減価償却資産の耐用年数に関する省令から、当該鉄塔が耐用年数表のどの部分に該当するかを推測してみると、次のようになります。



耐用年数の判定においては、減価償却資産の名称等の形式的なものでなく、「どのような構造で、どのような用途(事業)に使われるものなのか」という実態に応じて判断することになりますが、こうした判断を巡って双方で解釈の食い違いが出たものと考えられます。また、他の携帯電話大手企業(NTTドコモやソフトバンクモバイル)が、耐用年数の判断をどのように行っていたかも気になります(東京国税局も、これらの情報を得たうえで、今回の追徴という判断に至ったと思われますので。)


3.教訓

土地や減価償却資産(建物、構築物、機械装置等)といった固定資産は、購入するときと処分するときは細心の注意を払って処理しますが、保有期間中の処理というのは、案外見過ごされがちです。耐用年数の判定も、購入や建設当初には当然検討しますが、その後の見直しというのは、省令等の改正がない限り、あまり行われていません。

適正な耐用年数になっていれば問題はありませんが、例えば、過去の税務調査等で指摘されなかったからといって、必ずしも適切な耐用年数になっているとは限りません(過去の税務調査で、見過ごされている可能性があります。)耐用年数が間違っていれば、結果として何年間にもわたって間違った減価償却費が計上されてしまうことになります。

減価償却資産や減価償却費が比較的多額な場合、 固定資産現物と固定資産台帳の定期的な照合に加え、耐用年数の検討(検証)も併せて行ってみると良いと思われます。

また、ライフサイクルの短い製品の生産設備や特殊な機械等で、耐用年数省令に基づいて償却することが実態に即さない場合には、耐用年数短縮の承認申請を行うといった方法も検討できます。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2014年6月2日月曜日

金融商品取引法の改正(新規上場後3年間、内部統制監査の免除)

1.はじめに

改正金融商品取引法が5月23日の参議院本会議で成立しました。
幾つかある改正内容の中で注目すべきは、株式公開(IPO:Initial Public Offering)を促進するため、上場から3年間は「内部統制報告書」の監査を免除することとされた改正です。施行日は「公布日から1年以内」となっています。


2.「内部統制」と「内部統制報告書監査」

 内部統制監査の対象となる「内部統制」とは、適切な財務情報(財務諸表)を開示するための社内の体制です。「内部統制」が有効か否かについて、(1)まず、経営者が内部統制の有効性を評価し、(2)その評価結果を公認会計士が監査することが義務付けられており、これが内部統制(報告書)監査といわれるものです。この内部統制(報告書)監査は、平成21年3月期決算から導入されました。


3.内部統制監査と小規模企業の負担

現行制度では、上場と同時に内部統制監査がスタートします。したがって、各種の上場準備作業と並行して内部統制監査に耐えられるだけの社内体制を作る必要があります。そのため、新規上場のハードルがかなり高くなっているという指摘がありました。さらに、こうしたハードルの高さ故、新規上場社数が伸び悩んでいるという面も否定できませんでした。

今回の改正で、上場後3年間は内部統制監査が免除されることになりました。その結果、上場時の企業の負担が軽減され、証券市場の活性化に寄与することが期待されています。


4.上場時に、内部統制が不要というわけではない

内部統制監査が免除されるからといって、上場時の内部統制がいい加減であってもよいということではありません。上場に際しては、証券取引所や主幹事証券会社によるかなり厳しい審査を受ける必要があり、(この審査には)内部統制の審査も含まれます。この上場時の審査をパスできるだけの内部統制が整備されていれば、(3年間は)内部統制監査を免除しても問題ないとされたのです。

ただ、すべての新規上場会社について内部統制監査が免除されるわけではなく、特に企業規模が大きく、社会・経済的影響力の大きな企業は除かれています。


5.二段構えの内部統制構築とスケジュール管理

新規上場時に内部統制監査が免除されることから、内部統制に関しては段階的構築・運用ができるようになりました。

第1段階(上場前)
主幹事証券会社や証券取引所の審査に耐えられる内部統制構築・運用

第2段階(上場後)
内部統制監査に耐えられる内部統制構築・運用 ☛ (1)の拡充

もちろん、第一段階、第二段階の内部統制は別物ではなく、第一段階の延長線上に第二段階があります。

注意すべきは、上場後というのは、大きな仕事をやり遂げたという達成感から、社内体制構築や運用が緩くなる危険性があります。そうした中で、再び気分を引き締めて、3年後に向けて(内部統制監査に耐えられる)内部統制の構築を行う必要があります。そのためには、公開後も気を抜かず、しっかりとしたスケジュール管理の下、内部統制の拡充を図ることが求められます。


6.内部統制監査の対象とならない「内部統制」も重要(=リスク管理)

 今回話題となっている「内部統制」は、主に、財務報告(財務諸表の作成・公表)に関する内部統制です。しかし、内部統制には、財務報告に直接関連しないものもあります。例えば、取引先(顧客)情報・個人情報等の重要な情報の管理、(メーカーであれば)、製品検査納期管理などがあります。

すなわち、内部統制監査の対象でない内部統制であっても、(会社の運営上は)同じように構築することが必要になるのです。すなわち、財務情報を含め、会社を取り巻くリスクを統合的に管理する内部統制が必要になるのです。

こうした内部統制全般を短期間に整備・構築することは困難です。したがって、内部統制の重要性を早い段階で認識し、リスクの大小に応じた優先順位をつけながら、段階的に構築していくことが必要になります。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2014年5月28日水曜日

交際費課税の改正

1.はじめに

平成26 年3月31 日に公布された所得税法等の一部を改正する法律により、法人の交際費等の損金不算入制度が改正され、平成26 年4月1日以後開始事業年度から適用されています。


2.改正の概要

(1)全法人共通
  交際費等の額のうち、接待飲食費(社内飲食費を除く一定の飲食費)の額の50% に相当する金額を損金の額に算入

(2)中小法人の場合
 
   ● 上記の接待飲食費の額の50% 相当額の損金算入
   ● 定額控除限度額(800万円 ) までの損金算入    
 のいずれか有利な方を選択可能


3.補足説明

(1)中小法人以外(≒大企業の場合)
従来、交際費の損金算入は認められていませんでした。交際費の内、接待飲食費については、その50%が損金算入できることになりました。




(2)中小法人(≒中小企業)の場合
現行の「800万円の定額控除制度」と「接待飲食費の50%相当額」の選択適用となりますので、接待飲食費の金額の多寡によって、有利・不利の判定が変わってくることになります。


ただ、下記の図表で見る通り、中小法人の内、「接待飲食費の50%相当額の控除」を使った方が有利な法人は、「接待飲食費が1,600万円を超える法人」となりますので、大半のケースでは、「800万円の定額控除」の方が有利と考えられます。



なお、詳細は国税庁の平成26年度 交際費等の損金不算入制度の改正のあらまし(パンフレット)をご参照下さい。



清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office