2013年9月4日水曜日

72の法則

● 72の法則

『72の法則』というのをご存知でしょうか?
『72の法則』とは、一定利率で元本を複利で運用した時に、元本が2倍になるまでに必要な年数を求めるときに役立つ法則です。すなわち、「72÷年利率」で元本が2倍になる(概算)年数を求めることができます。例えば、年利率3%であれば、約24年(72÷3)、年利率6%であれば約12年(72÷12)で元本が2倍になるということになります。

『72の法則』を使った元本が2倍になる年数(簡便計算)と、2倍になるまでの年数を正確に計算した結果を一覧表にすると、以下のような表になります。①が「72の法則」で計算した年数(簡便計算)、②が2倍になるまでの正確な年数です。

表を見ると、年利率が4%~10%位までの範囲では、①「72の法則(簡便計算)」と②正確な計算結果はほとんど同じような年数になっています。すなわち、上記の年利率の範囲では、『72の法則』でかなり精度の高い近似値が得られていることがわかります。




● 『72の法則』が成り立つ理由

ここで、『72の法則』が成り立つ理由について考えてみましょう。
これは数学で簡単に証明できます。
元本をP円、利率をx%、元本が2倍になるまでの所用年数をn年とします。
すると、以下の式が成り立ちます。

2P=P(1+xn  ⇔ 2=(1+xn 
両辺の(自然)対数をとると以下のようになります。
2=(1+x)n  ⇔  ln 2nln(1+x)  n=ln 2ln(1+x)・・・ (1)
(1)式を元に計算した結果(=正確な年数)が上の表の②です。

ところが、(1)式の形だと、パソコン等がないと簡単に計算できません。
そこで手軽に計算できる近似計算が必要となるのです。この近似計算が『72の法則』です。

(1)式の分母の"ln(x+1)" に着目します。これを f(x)=ln(x+1) とおきます。
すると、f(x)テイラー展開によって以下のようなります。

f(x)ln(x+1)x1/2x21/3x31/4x4+・・・
ここで、x2 以後の項xが限りなくゼロに近づけば、無視しうる程度に小さい数(=ゼロ)になります。



そうすると、f(x)=ln(x+1)≈ x となります(一次近似)。
別の言い方をすると(xの値が十分小さければ)、y = ln (x+1)のグラフは、y = xのグラフとほとんど同じということです。
(下記グラフ参照。)




前記(1)の式を ln(x+1)  ≈ x を用いて変形すると、
n = ln2/ln(x+1) ⇔ n=ln2÷x ⇔ n・ x=ln2・・・ (2)
となります。

xを%単位で表示するために、(2)式の両辺に100を掛けると、n・(100x)=100・ln2≒69.31 となります(ln2≒0.6931です。)すなわち、『年数×利率(%)≒69.31』となります。

この69.31という数字に対応して"72"という数字が用いられるのです。
別に72でなくても、69、70あるいは71でもよいのですが、 この近辺の数値の中では、多くの約数を持つ"72"が最も計算しやすい数値なので、代表数値として用いられているということです。
ちなみに、元本が3倍になる年数を計算する場合は「年数×利率(%)≒109.8」になりますので、近似値として"108"を使うことができます。例えば、年利6%の場合に元本が3倍になる年数は、108÷6=18(年)と計算できます。


●72の法則を応用すると、元本が10倍になる年数も計算できるのか?

72の法則を使うと、『2倍の場合が72、3倍の場合が108だから、36の倍数を使って、4倍の場合は144、5倍の場合は180というように計算できるのではないか?』という推測も出てくるでしょう。概算年数の計算という点では「間違い」とまでは言えませんが、72という概算数値を援用して36の倍数を用いて計算していくと、「元本の3倍」までは精度の高い計算ができますが、それ以上になると精度がかなり落ちていきます。例えば、4倍の場合(144)は「4倍:年数×利率(%)≒138.6」、5倍の場合(180)は「5倍:年数×利率(%)≒160.9」となりますので、乖離がだんだん大きくなってきます。

ちなみに、元本が10倍になる年数を求める時に72の法則を使うと「360」となり、年利4%では90年と計算されます。ところが、本来の簡便計算では「10倍:年数×利率(%)≒230.3」となりますから、実際は60年弱で10倍になります。60年と90年ではだいぶ結果が違ってきますので、もはや「72の法則」は通用しません。なお、上記(1)式を用いて10倍になる正確な年数を計算すると、約58.7年となります。


● 利率が上がってくると、『72の法則』が成り立たなくなる

72の法則が成り立たないもう一つのケースを検討します。先ほどの近似計算では、x2 以後の項を無視して計算しました。上記の表を見ると、利率(=x)が上昇して100%を超えるようになると、①「72の法則(簡便計算)」と②正確な計算結果の乖離幅が大きくなっていることが分かります。すなわち、高い利率になると近似計算(切捨計算)が成り立たず、結果として、『72の法則』の精度が落ちていくのです。

これは、利率が上がると先ほど無視した部分が、無視できないような(大きな)数値になってくるためです。





数式では分かり難いかもしれないので、グラフで説明します。
利率(x)が低い領域では、y=ln(x+1)y=xの2つのグラフがほとんど一緒であることは、上記のグラフで説明した通りです。ところが、下記のグラフで見るように、利率が高い領域では、y=ln(x+1)のグラフは、y=xのグラフと同じようなものと言えないのです。利率が上がると、近似計算(=72の法則)が成り立たないのはこれが理由です。




清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年8月22日木曜日

ホーソン効果(Hawthorne Effect)は”なかった”のか?

1.ホーソン実験とホーソン効果

ホーソン実験とは、1927年から1932年にかけて、米国シカゴのウエスタン・エレクトリック社のホーソン工場で行われた一連の実験を意味します。この実験では、従業員の作業効率に及ぼす様々な要因についての実験が行われました。例えば、「照明実験」は、工場の照明(の明るさ)と作業効率(組立個数)の関係を調べることを目的とした実験でした。照明を明るくすれば作業効率は上がり、逆に暗くすれば効率は下がるだろうと仮定したのです。

しかし実際は、照明を明るくした場合も暗くした場合も、どちらの場合も従来よりも作業効率が向上するという矛盾した現象が観察されたのです。従業員(被験者)には、実験を行っているという事実だけが伝えられており、実験の目的は明かされていませんでした。そこで、照明の明るさに関係なく作業効率が向上したのは、実験に参加している従業員(被験者)が、「自分達は重要な実験に参加しており、注目されている」と考えたことが原因ではないか、考えられるようになりました。

このように、従業員が抱く「周囲から注目(期待)されているという意識」が生産性を高める効果のことを、一般にホーソン効果(Hawthorne effect)と呼びます。





2.人間関係論と科学的管理法

20世紀の初頭にフレデリック・テイラーによって提唱された「科学的管理法」では、人間を機械のように扱い、労働への動機付けは主に「金銭」であると考えました。

しかし、ホーソン工場で行われた一連の実験により、生産性に影響するのは、①職場での人間関係、②職場のインフォーマルグループやその規範、あるいは、③指導監督者のリーダーシップであるという仮説が導かれました。

ホーソン実験は、経営学や心理学等の社会科学に大きな影響を与えました。例えば、ホーソン実験に始まる「人間関係論」は、テイラーの「科学的管理法」とともに、経営学発展の重要な試金石となりました。現在でも、経営学や組織論の教科書には、ほぼ100%の確率でホーソン実験(効果)取り上げられているといっても過言ではありません。


3.統計的見地から見たホーソン実験(ホーソン効果)

ところが、近年になって、当初行われたホーソン実験の結果を疑問視する論文がいくつか公表されるようになりました。当時実際に行われた実験データに基づき、統計的な解析を加えた結果、ホーソン効果に関して、統計上有意な(意味のある)結果は、認められなかったと指摘しています。

例えば次のような問題点が指摘されています。

(1)実験データは5人の女性作業員と3名の代替要員の合計8名に過ぎないこと。
(2)生産性の変化の指標(平均値)自体、極めて小さいこと。
(3) コントロールグループを設定した対照実験が行われていないこと。


(1)については、そもそもサンプル数が非常に少なかったということです。
(3)のコントロールグループを設定した実験とは、例えば以下のような2つのグループを設定して行う実験です。
★ Aグループ(コントロールグループ)
  ☛ 実験に参加していることを知らせずに照明の明暗だけ調整する被験者グループ

★ Bグループ(ホーソン効果を検証したいグループ)
  ☛ 実験に参加していることを伝えたうえで、照明の明暗を調整する被験者グループ

AグループとBグループを観察した結果、Bグループの方の生産効率が高いことが統計上示されれば、ホーソン効果の存在が立証できることになります。


4.ホーソン効果は存在するのか?

上記のとおり、ホーソン工場の実験によって示された「ホーソン効果」は、かなり疑義があると言わざるを得ません。また、ホーソン実験で”分かった”とされる実験結果は、その後多くの学者達によって、様々な意味合いが付与されてきた(拡大解釈されてきた)と言えるのかもしれません。

但し、上記の結果をもって「ホーソン効果は存在しない。」とまでは言えません。周囲からの期待によりモチベーションがアップし、結果的に生産効率が上がるというのは、十分納得できる帰結です。ただ、ホーソン効果の存在を実証するためには、1920年代に行われたのと同じような実験を、何度か行う必要があるのかもしれません。


【参考文献】
Jones, Stephen R. G. (1992). "Was there a Hawthorne effect?".American Journal of Sociology 98 (3): 451–468.



 
清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年8月16日金曜日

ビジネスモデル

本日は、ビジネスモデル(Business Model)のお話です。



1.「ビジネスモデル」という用語の誕生

ビジネスモデルという言葉が使われ始めたのは1990年代の後半、ちょうど米国のITバブル(「インターネット・バブル」とか「ドットコム・バブル」とも呼ばれていました。)の真っ最中だったように記憶しています。この時期には、いわゆるドットコム(dot.com)企業と言われるインターネット関連のベンチャー企業が続々と設立され、これらの会社がごく短期間のうちに株式上場を果たしました。1999年~2000年頃にかけてドットコム企業の株価は異常なまでに上昇しましたが、2001年にはバブルがはじけました。

日本でも当時「2000年問題」が話題となりましたが、(ちょうど同じ時期である)1999年~2000年頃、IT系企業の新規上場で株式市場が活性化しました。しかし、やはり2001年頃、日本でもバブルがはじけたのです。


2.ビジネスモデルの有効性を評価する2つのテスト

世の中にビジネスモデルについて書かれた本は沢山ありますが、今回ご紹介するのは、「ビジネスモデル」を検証する簡単かつ有効な方法として、Harvard Business Schoolの Joan Magretta 教授が提唱したテストです。

このテストはとてもシンプルで、(1) The Narrative Testと(2) The NumberTestの2つのテストから成ります。

(1) The narrative test

The Narrative Testとは、「モデルの有効性を論理的かつ説得力をもって説明できるか」ということです。すなわち、
 
   ① 顧客は誰か?
   ② 顧客は何に価値を見出しているか?
   ③ 顧客にどのようにして価値を提供できるか?
     という点について説得力をもって語ることができるかということになります。


(2) The numbers test

(1)のテストを通過したビジネスモデルが、(長期的に)収益(キャッシュフロー)を生むかどうかというテストです。言い換えると、ビジネスモデルを損益計算書やキャッシュフロー計算書に落とし込んだ場合、利益や資金を生むモデルになっているのか、ということです。

仮に価値のある製品やサービスを提供できたとしても、コストをカバーできるだけの収入(収益)がなければ、事業としては成り立ちません。


3.終わりに

上記の2つのテストは、別の見方をすると、「定性テスト」と「定量テスト」といえるかもしれません。

(1)定性テスト:顧客が認める価値とその提供方法を論理的に説明できるのか?
(2)定量テスト:数値面から、収益(資金)を生むモデルになっているのか?

上記の2つのテストは、至極当たり前のことです。
しかし、今まで様々なビジネスモデルを見てきた経験では、①顧客が認める価値についての分析が不十分だったり、②モデルの論理性(一貫性)が欠けていたり、あるいは、③事業として成り立つかどうか(コストはどの位かかって、いつまでに、いくら、どうやって稼ぐのか)が曖昧だったりすることが極めて多いことも事実です。

もちろん、完璧なビジネスモデルなど存在しないので、2つのテストで非の打ちどころのないモデルを構築する必要はありません。

重要なのは、2つのテストを行って、①モデルのどこに課題があるのか、②それをどのように改善すべきか、について十分検討することによって、自身のビジネスモデルをより良いものにしていくことです。

参考文献 Joan Magretta, Why Business Models Matter, Harvard Business Review, May 2002



清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年8月9日金曜日

5匹のサルの実験

本日は、5匹の猿を使った実験についてお話しします。キーワードは「猿」、「バナナ」、「はしご(踏み台)」、(冷水の)「放水」です。実験は3段階に分かれます。


● 第1段階

5匹の猿がオリに入れられます。オリの上からバナナが吊るされ、ちょうどその真下に(バナナに手が届くように)踏み台が設置されます。

一匹の猿がバナナを目がけて踏み台をよじ登ろうとすると、その猿に冷水が浴びせられます。さらに、残り(4匹)の猿にも同様に冷水が浴びせられます。猿が踏み台を登ろうとすると、その都度、登ろうとした猿と残り(4匹)の猿達に冷水が浴びせられます。

この実験は、踏み台を登ろうとする猿がいなくなるまで、すなわち、「バナナを取ろうとして踏み台に登ろうとすると、(すべての猿に)冷水が浴びせられる」ということを、5匹の猿が学習するまで、続けられます。水を浴びせるのは第1段階で終了します。


● 第2段階

5匹の猿が学習を終えたところで、1匹の猿がオリから出され、別の(新しい)猿がオリに入れられます。オリの中には、「新参者の猿:1匹」と古参の猿:4匹」という状況になります。

新参者の猿は、(予想通り)バナナを見つけると、取ろうとして踏み台をよじ登ります。そうすると、残り4匹の猿が(踏み台を登らせまいと)新参者の猿を目がけて一斉に襲い掛かります。その後も、新参者の猿が踏み台を登ろうとするたび、他の猿が襲い掛かります。そして最後には、新参者の猿は、踏み台をよじ登ろうとしなくなります。「踏み台を登ろうとすると仲間の猿から攻撃される」という教訓を学習したわけです。新参者の猿は、冷水を浴びせられた経験がないにも拘らず・・・。

新参者の猿が学習を終えると、(古参の)2匹目の猿がオリから出され、新しい猿がオリに入れられます。新参者の猿は、踏み台を登ろうとしますが、そのたびに他の4匹の猿から総攻撃にあいます。かくして、「踏み台に登ろうとすると酷い目にあう」ことを学習していきます。このようにして、新参者の猿の学習に合わせて3匹目の猿、4匹目の猿・・・と順次新しい猿と入れ替えられていきます。


● 第3段階

(古参の)5匹目の猿がオリから出され、代わりに新参者の猿が入ってきます。この時点で、オリの中に残っている4匹の猿はいずれも冷水を浴びせられた経験がない猿達となります。

例によって、新参者の猿が踏み台によじ登ろうとすると、残り4匹の猿は新入りに一斉攻撃を仕掛けます。(攻撃を仕掛ける4匹の猿達は)冷水を浴びせられた経験が全くないにもかかわらず・・・。


● 教訓

我々人間社会には、様々な規範や慣行があります。また、会社内にも様々なルールや仕事のやり方があります。こうした規範やルール等は、社会生活を行う上で、あるいは仕事を行う上で必要不可欠なものです。

しかしながら、かつては意味のあった規範やルール、あるいは仕事のやり方であったとしても、時代の流れとともに、今ではその意味がほとんど失われてしまっているものも少なくありません。
例えば、単に『前任者が行っていたから』という理由だけで、(その仕事の意味や目的を深く考えずに)行われている手続きも多々あります。

「5匹の猿の実験」の教訓として、時々フレッシュな視点で、「今の仕事のやり方、その意味(必要性)を再検討してみること」も必要でしょう。


● 備考

今回の5匹の猿の実験はかなり有名で、経営書にもたびたび登場するのですが、出典がよく分かりません。下記の1967年に行われた(猿を使った)実験がヒントになっているようですが、上記の実験に関するデータについては確認できませんでした。


 <参考文献>
F. ヴァーミューレン(2013)『ヤバい経営学: 世界のビジネスで行われている不都合な真実』  本木 隆一郎、山形 佳史(訳) 東洋経済新報社

G. ハメル& C.K.プラハラード(1995) 『コア・コンピタンス経営』」 一條和生(訳) 日本経済新聞社

Stephenson, G. R. (1967). Cultural acquisition of a specific learned response among rhesus monkeys. In: Starek, D., Schneider, R., and Kuhn, H. J. (eds.), Progress in Primatology, Stuttgart: Fischer, pp. 279-288.



清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年5月12日日曜日

教育資金の贈与

今さら申し上げるまでもないですが、教育には本当にお金がかかります。
ちなみに、幼稚園(3歳)から高校卒業までの15年間にどれ位の費用がかかるかご存知でしょうか?

文部科学省の『平成22年度子どもの学習費調査』によると、幼稚園から高校まですべて公立の場合の学習費総額は約500万円、一方、すべて私立の場合には、約1,700万円という調査結果が出ています。これに大学が加わると、教育費はさらに膨らみます。

ということで、今回は、平成25年度税制改正の中から、『教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置』について取り上げます。


1.制度の概要

平成25年度税制改正で、『教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置』が新設されました。祖父母や父母(直系尊属といいます。)が教育資金を孫や子へ一括贈与した場合、孫(子)1人当たり1,500万円まで贈与税が非課税とされました。非課税措置では、贈与する人数の制限はありません。例えば祖父母に孫が4人いるとすると、最大で6,000万円まで非課税で贈与することができます。

具体的なイメージは、以下の図表のとおりです。





 2.非課税措置の内容
  
(1)対象期間と対象額
  平成25年4月1日~平成27年12月31日までの間の供出額が対象です。

(2)贈与受ける者(受贈者)の条件
  30歳未満の個人に対する教育資金であることが条件です。

(3)供出(贈与)方法
  教育資金口座の開設等(※1)を行うことが必要です。

※1 「教育資金口座の開設等」とは、金融機関等との一定の契約に基づき、受贈者の直系尊属(祖父母など)から拠出された資金で受贈者の直系尊属(祖父母など)から①信託受益権を付与された場合、②書面による贈与により取得した金銭を銀行等に預入をした場合又は③書面による贈与により取得した金銭等で証券会社等で有価証券を購入した場合をいいます。

(4)非課税限度
  拠出額のうち1,500万円までの部分について、
  教育資金非課税申告書を(金融機関に)提出すると、贈与税が非課税となります。

(5)契約終了
  ①  受贈者が30歳に達したこと
  ② 受贈者が死亡したこと
  ③ 口座等の残高がゼロになり、かつ、教育資金口座契約終了の合意がなされたこと

  により、教育資金口座に係る契約は終了します。

6)贈与税が課される場合
(5)①又は③の理由で契約が終了した場合、非課税拠出額(1,500万円を限度 ※2)から教育資金支出額(学校等以外に支払う金銭については、500万円を限度 ※3)を控除した残額がある場合、その残額が契約終了日の属する年に贈与があった額とされます。

説明が少しわかりにくいですが、端的には上記の図表の    について贈与税が課されます。すなわち、その年の贈与税の課税価格の合計額が基礎控除額を超えるような場合、贈与税の申告期限までに贈与税の申告を行う必要があります。一方、    の部分が存在しなければ、すべて非課税となります。

※2 「非課税拠出額」とは、教育資金非課税申告書(又は追加教育資金非課税申告書)に本制度適用を受けるものとして記載された金額を合計した金額(1,500万円を限度)を意味します。

※3 「教育資金支出額」とは、金融機関等の営業所等において、教育資金として支払われた事実が領収書等により確認され、かつ、記録された金額を合計した金額をいいます。


3.補足説明

(1)教育資金の意味
  教育資金とは以下のようなものを意味します。

  ①  学校等(※4)に対して直接支払われる以下のような金銭
     (ⅰ)入学金、授業料、入園料、保育料、施設設備費又は入学(園)試験の検定料など
     (ⅱ)学用品の購入費や修学旅行費や学校給食費など学校等における教育に伴って
        必要な費用など

  ② 学校等以外(※5)対して直接支払われる金銭で社会通念上相当と認められるもの

   ● A.役務提供又は指導を行う者(学習塾や水泳教室など)に直接支払われるもの

    (ⅲ) 教育(学習塾、そろばんなど)に関する役務の提供の対価や施設の使用料など

    (ⅳ) スポーツ(水泳、野球など)又は文化芸術に関する活動(ピアノ、絵画など)
       その他教養の向上 のための活動に係る指導への対価など

    (ⅴ)(ⅲ)の役務の提供又は(ⅳ)の指導で使用する物品の購入に要する金銭

    ● B.上記A以外(物品の販売店など)に支払われるもの
    (ⅵ) ①-(ⅱ)に充てるための金銭であって、学校等が必要と認めたもの


※4 「学校等」とは、学校教育法で定められた幼稚園、小・中学校、高等学校、大学(院)、専修学校、 各種学校、一定の外国の教育施設、認定こども園又は保育所等などをいいます。

※5 学校等以外に支払う金銭について非課税措置が利用できる限度は500万円となります。

(2)教育資金口座からの払出し及び教育資金の支払
教育資金口座からの払出しや教育資金の支払を行った場合、その支払に充てた金銭に係る領収書などその支払の事実を証する書類等(原本)を、次の①又は②の出期限までに教育資金口座の開設等をした金融機関等の営業所等に提出する必要があります。

 ① 教育資金を支払った後、実際に支払った金額を教育資金口座から払い出す方法を教育資 金口座の払出方法として選択した場合
  ☛  領収書等に記載された支払年月日から1年を経過する日

 ② ①以外の方法を教育資金口座の払出方法として選択した場合
  ☛  領収書等に記載された支払年月日の属する年の翌年3月15日

上記①又は②の払出方法の選択は、受贈者が教育資金口座の開設等時に行います。


(3)外国の教育施設への支払
  国際化社会が進展する中、①外国の大学や大学院への留学、②両親の海外赴任に伴って外国で教育を受けるケースも考えられます。教育資金の非課税制度は、一定の外国の教育施設についても認められます。なお、渡航費や滞在費あるいは下宿費用は非課税対象になりませんが、学校の寮費など(教育に付随する費用として)学校に支払われたことが明らかなものは非課税対象となるようです。
 ちなみに、外国で受ける教育費用-例えば、欧米の大学以上の高等教育に係る費用-は大変高額です。そこで、この制度を利用して海外留学することも検討できるかもしれません(報道によると、日本の若い人達は、内向き志向と言われているようですので・・・。)

なお、「祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度」の詳細については、国税庁のHPに「パンフレット」や「Q&A」がまとめられておりますので、そちらをご覧ください。

また、教育資金口座の開設等の手続きについては、金融機関(銀行、信託銀行、証券会社)にお問い合わせ下さい。


今回は以上です。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年5月7日火曜日

事業承継税制の改正について


本日は、平成25年税制改正の中から、『事業承継税制』に関する改正ポイントを説明いたします。

1.事業承継税制とは何か?

事業承継税制とは、端的に言えば、非上場株式(自社株式)に課される税金(贈与税や相続税)の全部または一部を繰延べできる制度(=納税猶予制度)です。自社株式の相続や贈与時の時価は、予想以上に高くなるのが通常です。他方、自社株は流通性がほとんどありませんから、換金できない株式に高額な贈与税や相続税が課されると、事業承継に支障が出る可能性があります。こうした事態に対応して、一定の条件を満たす場合、中小企業の後継者が、現経営者から会社の株式を承継する際、相続税・贈与税が軽減(相続:80%分、贈与:100%分)される制度が事業承継税制(納税猶予制度)です。


2.制度適用のための一定の条件とは?

事業承継税制は、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(円滑化法)」を基礎とした制度です。円滑化法は、① 遺留分に関する民法の特例、② 事業承継時の金融支援措置、③ 事業承継税制の基本的枠組み を盛り込んだ事業承継円滑化に向けた総合的支援策の基礎となる法律ですが、③の事業承継税制が納税猶予制度に該当します。
すなわち、税法が円滑化法を借用して、円滑化法の一定の要件を満たす中小企業について、納税猶予の適用を受けることができるように制度化されているのです。

事業承継税制(納税猶予制度)の適用要件はかなり複雑ですので、ここで詳しく説明することはいたしませんが、ご興味のある方は、下記の中小企業庁のサイトで『最新版(平成25年度)の中小企業経営承継円滑化法申請マニュアル』をご覧ください。

☛ 中小企業庁:中小企業経営承継円滑化法 申請マニュアルについて

円滑化法について一点注意すべきなのは、この法律が「中小企業の雇用の維持・確保」を重視しているという点が挙げられます。すなわち、「中小企業の雇用確保 → 円滑な事業承継 → 贈与税・相続税の負担軽減 → 納税猶予」という流れが根底にあることに留意する必要があります。言い換えると、(後半の)「(経営者の)税負担軽減 → 納税猶予」という目的だけで、設定された法律ではなく、(円滑化法の)納税猶予が認められる「一定の条件」はかなり厳し目に設定されているということになります。

今回の改正では、この厳しい条件の一部が緩和されました。


3.改正点(要件緩和)

平成25年度税制改正で事業承継税制の適用要件が以下の通り緩和されました。

(1)事前確認の廃止:手続の簡素化(平成25年4月以後)
従来、制度利用の前に経済産業大臣の「事前確認」を受ける必要ありましたが、平成25年4月後は、事前確認を受けていなくても制度利用が可能になりました。

(2)親族外承継の対象化~親族以外にも拡大(平成27年1月以後)
現行では、後継者は現経営者の親族に限定されていますが、改正後は親族外承継も対象となります。

(3)雇用の8割維持要件の緩和(平成27年1月以後)
現行では、雇用の8割以上を「5年間毎年」(毎年度末)維持することが要件とされていますが、雇用の8割以上維持要件が「5年間平均」となります。例えば、現行は5年間で1回でも8割要件をクリアできないと納税猶予が打ち切りとなりましたが、改正後は、8割要件をクリアできない年があっても、5年間平均でクリアできればよいことになります。

(4)納税猶予打ち切りリスクの緩和(平成27年1月以後)
現行では、要件が満たせずに納税猶予が打ち切られた場合、納税猶予額に加え利子税(年2.1%)の支払いが必要です。平成27年1月以後は、①利子税率が引下げられる(2.1%→0.9%)とともに、②承継5年超で5年間の利子税が免除されることになりました。

また、事業の再出発にも配慮がなされました。現行は、相続・贈与から5年後以降は、後継者の死亡又は会社倒産により納税が免除されています。改正後は、民事再生、会社更生、中小企業再生支援協議会での事業再生の際にも、納税猶予額を再計算し、一部免除されることになります。

(5)役員退任要件の緩和:現経営者の退任要件を緩和(平成27年1月以後)
現行では、(贈与税の納税猶予の適用を受ける際)現経営者は、贈与時に役員を退任すること(いわば、「生前隠居」)が必要です。改正後は、贈与時の役員退任要件が代表者退任要件に緩和され、現経営者は(贈与後も引き続き)有給役員として残留することが可能となります。

(6)債務控除の計算方法の変更(平成27年1月以後)
現行では、猶予税額の計算で現経営者の個人債務や葬式費用を株式から控除するため、猶予税額が少なく算出されます。改正後は、現経営者の個人債務や葬式費用を株式以外の相続財産から控除することに変更されるので、その分、納税猶予額が増えることになります。

今回は以上です。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年4月7日日曜日

ホテリングの立地競争モデル(2)

前回、ホテリング(Harold Hotelling:1895 –1973)の立地競争モデルで、以下の2つのことを取り上げました。

① 2つの店が直線上の中間点に隣接して出店するのが均衡であること
② この均衡は安定的であること(どちらの店も、別の場所に出店したいというインセンティブを持たないこと)

今回は、このような出店(中心地に隣接出店)を消費者の観点から考えてみます。


■ 安定的な均衡(=中央立地) は 消費者にとって最も望ましい立地ではない

まず、「中心地の隣接出店」は消費者にとって望ましいものでしょうか。この点、直感的には「望ましくない」と思われるのではないでしょうか。

先の海水浴場のアイスクリーム屋の例で考えてみます。海水浴場の両端にいる人達にとって、ビーチの真ん中までわざわざアイスクリームを買いに行くのはかなり不便です。一方、中央付近にいる人達にとっては、どちらのアイスクリーム屋に行っても同じです。商品や価格は全く同じなので、2つの店が隣接している必要はないわけです。

したがって、消費者全体で見ると、2つのアイスクリーム屋が離れて立地している方が便利ということになります。


■ 消費者にとって望ましい立地

ここで、先の「直感」をもう少し厳密に検討してみます。A-Bの距離を1、消費者の移動コスト(足代)をtで表します。売っている品物と値段を同一とすると、違うのは消費者の移動コスト(足代)だけですから、この移動コストに絞って考えます。

赤の三角形の面積はX社へ、青の三角形はY社へ買いに行くコスト(足代)の合計となります。この例では2つの店が中央に位置しているので、色の違いはあまり関係ありません。消費者の限界移動コストをt、線分A-Bの長さを1とすると、消費者の移動コストの合計は、下の赤の三角形と青の三角形の面積合計となり、その面積はt/4と計算されます。


ところが、XYが少しでも離れると、三角形の面積合計は小さくなります。赤がXに行くためのコスト、青がYに行くためのコストの合計ですが、上の図の三角形の面積(=t/4)と比べて三角形の面積合計が減少しているのが分かります。


結局、赤と青の三角形の面積合計が最も小さくなるような立地が、消費者にとっては最も望ましい立地となります。消費者にとって最適な立地は、左から1/4、右から1/4の位置に2店が出店するケースです。この結果、X社、Y社が中央に出店するケース(=t/4)に比べると、消費者の移動コストは半分(=t/8)になります。


なお、消費者によって最適な立地に関する詳しい計算プロセスに興味のある方は、末尾の「数学的補足」を見ていただければと存じます。もっとも、わざわざ計算するまでもなく、最小コストが実現できる(三角形の面積合計が最も小さくなる)2店舗の立地場所は、上記のような位置になることが、直感的にも分かるかと思います。


■ 均衡点が安定的な均衡とは限らない

ところで、前回説明したとおり、上記のような消費者にとって望ましい均衡点は、安定的な均衡ではありません。X社,Y社のいずれか一方が他方に近づくことで、(近づいた方が)より多くの消費者を獲得できるからです。結局、安定的な均衡は、(X社、Y社ともに)中心点での隣接立地となります。

また、(X社とY社が同じだけの消費者を獲得する)均衡点はA-B上に無数に存在します。xy=1(0<xy<1)を満たすxyの組み合わせは無数にあるからです。しかし、これらの均衡点も、x=y=1/2でない限り不安定な均衡点です。

結局、(X社,Y社という)当事者に任せている限り、消費者にとって望ましい立地が実現できないことになります。そこで、「消費者にとって望ましい立地を実現する政策が必要になる」という考えが生まれます。

このホテリングの議論の延長線上に、昨今注目を浴びている「空間経済学」の考え方があるような気もします。


■ 出店数が3つ以上の場合

上記は、出店数が2つの場合の均衡点でした。出店数が3つ以上の均衡点はどうなるでしょうか。実は、3店舗以上の場合、常に安定的な均衡が存在するとは限りません。ちなみに3つの場合、安定的な均衡点はありません。4つの場合は、("0-1"の線分上において)1/4と3/4の点に2つずつ立地するのが安定的な均衡となります。6店舗の場合、1/6,3/6(=1/2),5/6の3箇所に各2つずつ出店するのが安定的均衡となります。 すなわち、3つ以上の奇数店舗のケースについては、安定的な均衡は存在しないことになります(ご興味があれば、図を描いて試してみてください。)

今回は、ちょっとした頭の体操のような話題でした。



【数学的補足】

XとYがどのような位置に立地すると、三角形の面積が最小になるでしょうか。数学的にこれを知るためには、①から④の部分に分解して考えます。Xの位置をx、Yの位置をyと置き、0<xy<1(xyの左側に位置すると考える) とすると、①~④は、t,x,yを用いて上記のように表すことができます。tは消費者の(限界)移動コストです。



①~④の合計が消費者にとっての(社会的)コスト(SC:Social Cost)と考えると、SCは(上記の式を整理して)以下のように表すことができます。

SC=g(x,y)とすると、x,yの2階偏微分はそれぞれプラスとなりますので、SCの最小値は、δg/δx=0, δg/δy=0を解くことで求まります。


δg/δx=0, δg/δy=0を解くと、x=1/4, y=3/4となり、SC=t/8と計算されます。すなわち、X社、Y社が中央に出店するケース(=t/4)の半分のコストになります。したがって、以下のようにXとYが立地することが、消費者にとっては最も望ましいことになります。



清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office