『72の法則』というのをご存知でしょうか?
『72の法則』とは、一定利率で元本を複利で運用した時に、元本が2倍になるまでに必要な年数を求めるときに役立つ法則です。すなわち、「72÷年利率」で元本が2倍になる(概算)年数を求めることができます。例えば、年利率3%であれば、約24年(72÷3)、年利率6%であれば約12年(72÷12)で元本が2倍になるということになります。
『72の法則』を使った元本が2倍になる年数(簡便計算)と、2倍になるまでの年数を正確に計算した結果を一覧表にすると、以下のような表になります。①が「72の法則」で計算した年数(簡便計算)、②が2倍になるまでの正確な年数です。
表を見ると、年利率が4%~10%位までの範囲では、①「72の法則(簡便計算)」と②正確な計算結果はほとんど同じような年数になっています。すなわち、上記の年利率の範囲では、『72の法則』でかなり精度の高い近似値が得られていることがわかります。
ここで、『72の法則』が成り立つ理由について考えてみましょう。
これは数学で簡単に証明できます。
元本をP円、利率をx%、元本が2倍になるまでの所用年数をn年とします。
すると、以下の式が成り立ちます。
2P=P(1+x)n ⇔ 2=(1+x)n | |||||
両辺の(自然)対数をとると以下のようになります。 | |||||
2=(1+x)n ⇔ ln 2=n・ln(1+x) ⇔ n=ln 2/ln(1+x)・・・ (1) |
ところが、(1)式の形だと、パソコン等がないと簡単に計算できません。
そこで手軽に計算できる近似計算が必要となるのです。この近似計算が『72の法則』です。
(1)式の分母の"ln(x+1)" に着目します。これを f(x)=ln(x+1) とおきます。
すると、f(x)はテイラー展開によって以下のようなります。
f(x)=ln(x+1)=x-1/2x2+1/3x3ー1/4x4+・・・ |
そうすると、f(x)=ln(x+1)≈ x となります(一次近似)。
別の言い方をすると(xの値が十分小さければ)、y = ln (x+1)のグラフは、y = xのグラフとほとんど同じということです。
(下記グラフ参照。)
前記(1)の式を ln(x+1) ≈ x を用いて変形すると、
n = ln2/ln(x+1) ⇔ n=ln2÷x ⇔ n・ x=ln2・・・ (2)
となります。
xを%単位で表示するために、(2)式の両辺に100を掛けると、n・(100x)=100・ln2≒69.31 となります(ln2≒0.6931です。)すなわち、『年数×利率(%)≒69.31』となります。
この69.31という数字に対応して"72"という数字が用いられるのです。
別に72でなくても、69、70あるいは71でもよいのですが、 この近辺の数値の中では、多くの約数を持つ"72"が最も計算しやすい数値なので、代表数値として用いられているということです。
ちなみに、元本が3倍になる年数を計算する場合は「年数×利率(%)≒109.8」になりますので、近似値として"108"を使うことができます。例えば、年利6%の場合に元本が3倍になる年数は、108÷6=18(年)と計算できます。
●72の法則を応用すると、元本が10倍になる年数も計算できるのか?
72の法則を使うと、『2倍の場合が72、3倍の場合が108だから、36の倍数を使って、4倍の場合は144、5倍の場合は180というように計算できるのではないか?』という推測も出てくるでしょう。概算年数の計算という点では「間違い」とまでは言えませんが、72という概算数値を援用して36の倍数を用いて計算していくと、「元本の3倍」までは精度の高い計算ができますが、それ以上になると精度がかなり落ちていきます。例えば、4倍の場合(144)は「4倍:年数×利率(%)≒138.6」、5倍の場合(180)は「5倍:年数×利率(%)≒160.9」となりますので、乖離がだんだん大きくなってきます。
ちなみに、元本が10倍になる年数を求める時に72の法則を使うと「360」となり、年利4%では90年と計算されます。ところが、本来の簡便計算では「10倍:年数×利率(%)≒230.3」となりますから、実際は60年弱で10倍になります。60年と90年ではだいぶ結果が違ってきますので、もはや「72の法則」は通用しません。なお、上記(1)式を用いて10倍になる正確な年数を計算すると、約58.7年となります。
● 利率が上がってくると、『72の法則』が成り立たなくなる
72の法則が成り立たないもう一つのケースを検討します。先ほどの近似計算では、x2 以後の項を無視して計算しました。上記の表を見ると、利率(=x)が上昇して100%を超えるようになると、①「72の法則(簡便計算)」と②正確な計算結果の乖離幅が大きくなっていることが分かります。すなわち、高い利率になると近似計算(切捨計算)が成り立たず、結果として、『72の法則』の精度が落ちていくのです。
これは、利率が上がると先ほど無視した部分が、無視できないような(大きな)数値になってくるためです。
数式では分かり難いかもしれないので、グラフで説明します。
利率(x)が低い領域では、y=ln(x+1)とy=xの2つのグラフがほとんど一緒であることは、上記のグラフで説明した通りです。ところが、下記のグラフで見るように、利率が高い領域では、y=ln(x+1)のグラフは、y=xのグラフと同じようなものと言えないのです。利率が上がると、近似計算(=72の法則)が成り立たないのはこれが理由です。
清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office)
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