1.分かりにくい土地の価格
土地の価格というのは、なかなか分かり難いものです。世の中に「同じような土地」はあっても、「まったく同じ土地」はありません。土地は極めて強い個別性を持っています。
土地は売買されますが、上場株式のような確立した市場はなく、売買できる土地の量もかなり限られています。また、買主や売主の持つ事情、保有している情報の質・量によって、現実の取引価格も大きく変わってきます。
一方、土地を買うと不動産取得税や登録免許税(登記に必要な税金)かかりますし、保有している土地には固定資産税や都市計画税がかかります。また、土地を売れば売却益に税金がかかります。さらに、土地を相続又は贈与すると相続税や贈与税がかかります。これらの税金の元になる土地価格は同じものではありません。様々な土地の価格に基づいて、各種の税金が計算されます。
2.土地の価格(一物四価)
土地の価格と一口に言っても、その意味するところはマチマチです。ここでは、以下の5つの土地価格の意味を見ていきます。なお、(2)の公示価格と(3)の基準地価は、時点が多少違いますが基本的に同じ意味合いを持つ土地価格ですので、両方を1つと考え、実勢価格、公示価格(基準地価)、路線価、固定資産税評価額で、『一物四価』と考えられます。
(1) 実勢価格
(2) 公示価格
(3) 基準地価
(4) 路線価(相続税路線価)
(5) 固定資産税評価額(固定資産税路線価)
3.土地価格の種類
(1)実勢価格
現実に土地が取引される価格を実勢価格といいます。
実勢価格は、現実に売買当事者間で成立した価格ですが、売主や買主の特殊事情(早く売りたい、とか、多少高くても買いたいといった事情)が入っていることも多いので、かなりバラツキがあるのが通常です。
なお、地域の不動産取引を数多く扱っている地元の不動産業者の方は、実勢価格に基づいてその地域の「相場観」を持っていますので、その地域で現実に土地売買を検討する際には参考になるでしょう。
(2)公示価格
公示価格とは、法律(地価公示法)に基づき、国土交通省が公表する土地の価格を意味します。
具体的には、一定の標準となる土地(平成25年の地価公示では、全国で26,000地点)を選んで、その年の1月1日現在の価格を算定し、毎年3月下旬頃公表します。また、公示価格は、上記の実勢価格から様々な特殊事情を除外した価格を意味し、1㎡当たり更地価格として公表されます。
公示価格は、①一般の土地取引の指標、②公共事業用地の取得、③相続評価や固定資産税評価などの目安として利用されます。
(3)基準地価格
基準地価格とは、都道府県知事が政令(国土利用計画法施行令)に基づいて公表する土地の価格です。
公示価格同様、基準となる土地(平成25年の基準地価では全国約22,000地点)を選んで、その年の7月1日現在の価格を算定し、毎年9月下旬頃公表しています。価格の意味合いは公示価格とほぼ同じですが、価格の判定日が公示価格とちょうど半年違っていることから、公示価格を補完するものとも言えます。
基準地価格の地点は、上記の公示価格の地点と重複しているものも多くなっていますが、公示地価が「都市計画区域」の中にある土地を対象としているのに対して、基準地価格は、都市計画区域外の土地も含んでいます。
(4)路線価(相続税路線価)
路線価は相続税や贈与税の課税を目的として、国税庁が定めている価格です。路線価は、毎年1月1日を評価時点として、公示価格(基準地価)、売買実例、精通者の意見等に基づいて算定されます。路線価図を見ると道路に値段が付いていますが、路線価とは、その道路に面した土地の1㎡当たりの評価額を意味します。路線価は公示価格の80%を目安に定められています。
相続税の財産評価は基本的に時価となっていますので、土地も時価で評価して申告するのが原則です。しかし、土地を時価評価することは、土地の個別性があるため、なかなか困難です。しかも、土地の個別事情を考慮した評価額が妥当かどうかについて、税務署側が判断するのも相当な労力が必要です。そこで、ある程度画一的に評価できるように、国税庁が土地の価格を定めたのが「路線価」です。
なお、平成25年分の路線価(評価時点平成25年1月1日)は、平成25年(平成25年1月1日~平成25年12月31日))に発生した相続や贈与について適用されます。したがって、例えば、1月の相続や贈与の場合、まだその年の路線価が公表されていませんので、土地の評価が必要な場合には、(7月に公表される)路線価を待って評価・申告を行うことになります。
(5)固定資産税評価額(≒固定資産税路線価)
固定資産税や都市計画税といった土地の保有に関する税金や不動産取得税や登録免許税(登記の印紙代)を計算する基礎となる価格です。さらに、上述の(相続税)路線価がない土地の相続税や贈与税における土地評価を行う際の基準としても用いられます。
固定資産税評価額は、課税主体である各市区町村が決定します。土地については、3年毎に1月1日現在の価格して決定されています。固定資産税路線価は公示価格の70%を目安として決定されています。
固定資産税評価額は、基準となる路線価(固定資産税路線価)に市区町村が各種の調整を加え、評価額を決定しています。一方、相続税や贈与税の土地評価額(相続税評価額)は、路線価を利用して納税者側が土地の個別性を加味して算定します。
以上をまとめると、下記の表のようになります。
公示価格(基準地価格) | 相続税路線価 | 固定資産税路線価 | |
目 的 | 土地取引の指標等、公共事業用地の取得、相続税路線価等の目安 | 課税目的(相続税・贈与税における土地評価) | 課税目的(固定資産税・都市計画税、不動産取得税、登録免許税) |
価格の基準日 | 公示価格:1月1日 | 毎年1月1日 | 1月1日(3年毎) |
基準地価:7月1日 | |||
公表時期 | 公示価格:3月下旬 | 毎年7月上旬 | 3月初旬(3年毎) |
基準価格:9月下旬 | |||
価格水準 |
-
|
公示価格の80% | 公示価格の70% |
4.土地価格の推定(簡便法)
前述のとおり、公示価格、相続税路線価、固定資産税路線価の間には次のような関係があります。
(A) 路線価:公示価格の80%
(B) 固定資産税路線価:公示価格の70%
この関係を利用すると、以下のような簡単な計算ができます。
(イ)土地の実勢価格(目安)を推定したい場合
✓ 推定公示価格 → 相続税路線価 ÷ 0.8(路線価×1.25)
または
固定資産税路線価(≒固定資産税評価額) ÷ 0.7
(例)相続税路線価が24万円/㎡の場合
→ 推定公示価格=24万円/㎡÷0.8=30万円/㎡
(ロ)土地の固定資産税評価額(目安)を推定したい場合
✓ 推定固定資産税評価額 → 相続税路線価 ÷0.8 ×0.7
(例)路線価が24万円/㎡の場合
→ 推定固定資産税評価額=24万円/㎡÷0.8×0.7=21万円/㎡
なお、固定資産税や都市計画税の課税標準額は、固定資産税評価額とは必ずしも一致しません。課税標準額は、軽減措置(小規模住宅用地の軽減等)や負担調整率を考慮して決定されています。
清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office)