2013年9月30日月曜日

土地の値段 一物四価

先日(9月19日)、平成25年都道府県地価調査に基づく『基準地価格』が公表されましたので、今回は土地関係の話題です。


1.分かりにくい土地の価格

土地の価格というのは、なかなか分かり難いものです。世の中に「同じような土地」はあっても、「まったく同じ土地」はありません。土地は極めて強い個別性を持っています。

土地は売買されますが、上場株式のような確立した市場はなく、売買できる土地の量もかなり限られています。また、買主や売主の持つ事情、保有している情報の質・量によって、現実の取引価格も大きく変わってきます。

一方、土地を買うと不動産取得税や登録免許税(登記に必要な税金)かかりますし、保有している土地には固定資産税や都市計画税がかかります。また、土地を売れば売却益に税金がかかります。さらに、土地を相続又は贈与すると相続税や贈与税がかかります。これらの税金の元になる土地価格は同じものではありません。様々な土地の価格に基づいて、各種の税金が計算されます。


2.土地の価格(一物四価)

土地の価格と一口に言っても、その意味するところはマチマチです。ここでは、以下の5つの土地価格の意味を見ていきます。なお、(2)の公示価格と(3)の基準地価は、時点が多少違いますが基本的に同じ意味合いを持つ土地価格ですので、両方を1つと考え、実勢価格、公示価格(基準地価)、路線価、固定資産税評価額で、『一物四価』と考えられます。

 (1) 実勢価格
 (2) 公示価格
 (3) 基準地価 
 (4) 路線価(相続税路線価)
 (5) 固定資産税評価額(固定資産税路線価)


3.土地価格の種類

 (1)実勢価格

現実に土地が取引される価格を実勢価格といいます。

実勢価格は、現実に売買当事者間で成立した価格ですが、売主や買主の特殊事情(早く売りたい、とか、多少高くても買いたいといった事情)が入っていることも多いので、かなりバラツキがあるのが通常です。

なお、地域の不動産取引を数多く扱っている地元の不動産業者の方は、実勢価格に基づいてその地域の「相場観」を持っていますので、その地域で現実に土地売買を検討する際には参考になるでしょう。


(2)公示価格

公示価格とは、法律(地価公示法)に基づき、国土交通省が公表する土地の価格を意味します。

具体的には、一定の標準となる土地(平成25年の地価公示では、全国で26,000地点)を選んで、その年の1月1日現在の価格を算定し、毎年3月下旬頃公表します。また、公示価格は、上記の実勢価格から様々な特殊事情を除外した価格を意味し、1㎡当たり更地価格として公表されます。

公示価格は、①一般の土地取引の指標、②公共事業用地の取得、③相続評価や固定資産税評価などの目安として利用されます。


(3)基準地価格

基準地価格とは、都道府県知事が政令(国土利用計画法施行令)に基づいて公表する土地の価格です。

公示価格同様、基準となる土地(平成25年の基準地価では全国約22,000地点)を選んで、その年の7月1日現在の価格を算定し、毎年9月下旬頃公表しています。価格の意味合いは公示価格とほぼ同じですが、価格の判定日が公示価格とちょうど半年違っていることから、公示価格を補完するものとも言えます。

基準地価格の地点は、上記の公示価格の地点と重複しているものも多くなっていますが、公示地価が「都市計画区域」の中にある土地を対象としているのに対して、基準地価格は、都市計画区域外の土地も含んでいます。


(4)路線価(相続税路線価)

路線価は相続税や贈与税の課税を目的として、国税庁が定めている価格です。路線価は、毎年1月1日を評価時点として、公示価格(基準地価)、売買実例、精通者の意見等に基づいて算定されます。路線価図を見ると道路に値段が付いていますが、路線価とは、その道路に面した土地の1㎡当たりの評価額を意味します。路線価は公示価格の80%を目安に定められています。

 
相続税の財産評価は基本的に時価となっていますので、土地も時価で評価して申告するのが原則です。しかし、土地を時価評価することは、土地の個別性があるため、なかなか困難です。しかも、土地の個別事情を考慮した評価額が妥当かどうかについて、税務署側が判断するのも相当な労力が必要です。そこで、ある程度画一的に評価できるように、国税庁が土地の価格を定めたのが「路線価」です。

なお、平成25年分の路線価(評価時点平成25年1月1日)は、平成25年(平成25年1月1日~平成25年12月31日))に発生した相続や贈与について適用されます。したがって、例えば、1月の相続や贈与の場合、まだその年の路線価が公表されていませんので、土地の評価が必要な場合には、(7月に公表される)路線価を待って評価・申告を行うことになります。


(5)固定資産税評価額(≒固定資産税路線価)

固定資産税や都市計画税といった土地の保有に関する税金や不動産取得税登録免許税(登記の印紙代)を計算する基礎となる価格です。さらに、上述の(相続税)路線価がない土地の相続税や贈与税における土地評価を行う際の基準としても用いられます。

固定資産税評価額は、課税主体である各市区町村が決定します。土地については、3年毎に1月1日現在の価格して決定されています。固定資産税路線価は公示価格の70%を目安として決定されています。

固定資産税評価額は、基準となる路線価(固定資産税路線価)に市区町村が各種の調整を加え、評価額を決定しています。一方、相続税や贈与税の土地評価額(相続税評価額)は、路線価を利用して納税者側が土地の個別性を加味して算定します。

以上をまとめると、下記の表のようになります。

  公示価格(基準地価格) 相続税路線価 固定資産税路線価
目  的 土地取引の指標等、公共事業用地の取得、相続税路線価等の目安 課税目的(相続税・贈与税における土地評価) 課税目的(固定資産税・都市計画税、不動産取得税、登録免許税)
価格の基準日 公示価格:1月1日 毎年1月1日 1月1日(3年毎)
基準地価:7月1日
公表時期 公示価格:3月下旬 毎年7月上旬 3月初旬(3年毎)
基準価格:9月下旬
価格水準
公示価格の80% 公示価格の70%



4.土地価格の推定(簡便法)

前述のとおり、公示価格、相続税路線価、固定資産税路線価の間には次のような関係があります。

 (A) 路線価:公示価格の80%
 (B) 固定資産税路線価:公示価格の70%
      

この関係を利用すると、以下のような簡単な計算ができます。

 (イ)土地の実勢価格(目安)を推定したい場合
    ✓ 推定公示価格 → 相続税路線価 ÷ 0.8(路線価×1.25) 
                                 または
                              固定資産税路線価(≒固定資産税評価額) ÷ 0.7

  (例)相続税路線価が24万円/㎡の場合
       → 推定公示価格=24万円/㎡÷0.8=30万円/㎡

 

 (ロ)土地の固定資産税評価額(目安)を推定したい場合
    ✓ 推定固定資産税評価額 → 相続税路線価 ÷0.8 ×0.7  

   (例)路線価が24万円/㎡の場合
       → 推定固定資産税評価額=24万円/㎡÷0.8×0.7=21万円/㎡

      
なお、固定資産税や都市計画税の課税標準額は、固定資産税評価額とは必ずしも一致しません。課税標準額は、軽減措置(小規模住宅用地の軽減等)や負担調整率を考慮して決定されています。



清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年9月27日金曜日

非嫡出子の相続分の違憲決定に伴う相続税の取り扱い(速報)

1.平成25年9月4日の最高裁判所の決定について

民法の規定では、法律上婚姻関係のない両親から生まれた「婚外子」(非嫡出子)の相続については、「法律婚の子(嫡出子)の2分の1」とする旨が規定されています。

民法第900条4号
子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
 
この民法規定を巡る裁判(平成13年7月に死亡した被相続人の遺産に関する裁判)で、最高裁は9月4日、「憲法に違反する」として非嫡出子の相続分に関する規定(非嫡出子の相続分を嫡出子の1/2とする規定)を無効とする判断を下しました。この結果、民法の相続分において、嫡出子と非嫡出子の差はなくなりました。


2.最高裁の決定を受けた相続税の扱い

(1)原則的取扱い

今回の最高裁の決定(違憲決定)を受けて、国税庁から相続税の扱いが公表されました。
今回の決定は、『確定的なものになった法律関係に影響を及ぼすものではない』と判示されていることから、決定の日(9月4日)を境に、違憲決定前(9月4日以前)か決定後(9月5日以後)かによって、取り扱いが分かれることになります。

すなわち、9月4日以前に相続税が確定している場合には、非嫡出子の相続分を嫡出子の1/2とする規定(以下、「嫡出に関する規定」)があるものとして相続税の計算・申告を行い、9月5日以後に相続税額が確定するものについては、「嫡出に関する規定」がないものとして相続税の計算・申告を行うことになります。


(2)例外的取扱い

原則的取扱いでは、9月4日と9月5日で、「嫡出に関する規定」の扱いに差が出ることになります。しかし、たった1日の差で相続税額に差が出るというのも、やや不公平感があります。そこで、9月4日以前に一旦確定した税額が、9月5日以後に変動するような場合には、「嫡出に関する規定」とする規定)がないものとして相続税の計算・申告ができることとされました。最高裁の決定事例が平成13年7月の相続であったため、相続税法でも平成13年7月以後に発生した相続が対象となっています。

例えば、平成25年8月31日に相続税の申告書を提出した場合を考えます。この場合、9月5日以後に新たに財産が見つかったり(申告漏れ)、評価に誤りが判明したため、修正申告書や更正の請求書を提出するとします。あるいは、9月5日以後に税務署による更正や更正決定があったとします。この場合には、一旦決定した税額が9月5日以後に変動するので、嫡出に関する規定がないものとして相続税額が計算されます。

ただし、「嫡出に関する規定」だけを理由とした更正の請求はできません。すなわち、「嫡出に関する規定」以外の理由で、確定した税額が変動することが必要になるわけです。

なお、平成25年9月4日以前の相続について、相続税の計算において「嫡出に関する規定」がないものとして扱われたとしても、『民法上の相続分』の扱いとは別の話であるという点を申し添えます。

上記の相続税上の扱いをまとめると、次の表のとおりになります。




詳細については、国税庁の以下のサイトをご覧ください。
http://www.nta.go.jp/sonota/sonota/osirase/data/h25/saikosai_20130904/index.htm




清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年9月4日水曜日

72の法則

● 72の法則

『72の法則』というのをご存知でしょうか?
『72の法則』とは、一定利率で元本を複利で運用した時に、元本が2倍になるまでに必要な年数を求めるときに役立つ法則です。すなわち、「72÷年利率」で元本が2倍になる(概算)年数を求めることができます。例えば、年利率3%であれば、約24年(72÷3)、年利率6%であれば約12年(72÷12)で元本が2倍になるということになります。

『72の法則』を使った元本が2倍になる年数(簡便計算)と、2倍になるまでの年数を正確に計算した結果を一覧表にすると、以下のような表になります。①が「72の法則」で計算した年数(簡便計算)、②が2倍になるまでの正確な年数です。

表を見ると、年利率が4%~10%位までの範囲では、①「72の法則(簡便計算)」と②正確な計算結果はほとんど同じような年数になっています。すなわち、上記の年利率の範囲では、『72の法則』でかなり精度の高い近似値が得られていることがわかります。




● 『72の法則』が成り立つ理由

ここで、『72の法則』が成り立つ理由について考えてみましょう。
これは数学で簡単に証明できます。
元本をP円、利率をx%、元本が2倍になるまでの所用年数をn年とします。
すると、以下の式が成り立ちます。

2P=P(1+xn  ⇔ 2=(1+xn 
両辺の(自然)対数をとると以下のようになります。
2=(1+x)n  ⇔  ln 2nln(1+x)  n=ln 2ln(1+x)・・・ (1)
(1)式を元に計算した結果(=正確な年数)が上の表の②です。

ところが、(1)式の形だと、パソコン等がないと簡単に計算できません。
そこで手軽に計算できる近似計算が必要となるのです。この近似計算が『72の法則』です。

(1)式の分母の"ln(x+1)" に着目します。これを f(x)=ln(x+1) とおきます。
すると、f(x)テイラー展開によって以下のようなります。

f(x)ln(x+1)x1/2x21/3x31/4x4+・・・
ここで、x2 以後の項xが限りなくゼロに近づけば、無視しうる程度に小さい数(=ゼロ)になります。



そうすると、f(x)=ln(x+1)≈ x となります(一次近似)。
別の言い方をすると(xの値が十分小さければ)、y = ln (x+1)のグラフは、y = xのグラフとほとんど同じということです。
(下記グラフ参照。)




前記(1)の式を ln(x+1)  ≈ x を用いて変形すると、
n = ln2/ln(x+1) ⇔ n=ln2÷x ⇔ n・ x=ln2・・・ (2)
となります。

xを%単位で表示するために、(2)式の両辺に100を掛けると、n・(100x)=100・ln2≒69.31 となります(ln2≒0.6931です。)すなわち、『年数×利率(%)≒69.31』となります。

この69.31という数字に対応して"72"という数字が用いられるのです。
別に72でなくても、69、70あるいは71でもよいのですが、 この近辺の数値の中では、多くの約数を持つ"72"が最も計算しやすい数値なので、代表数値として用いられているということです。
ちなみに、元本が3倍になる年数を計算する場合は「年数×利率(%)≒109.8」になりますので、近似値として"108"を使うことができます。例えば、年利6%の場合に元本が3倍になる年数は、108÷6=18(年)と計算できます。


●72の法則を応用すると、元本が10倍になる年数も計算できるのか?

72の法則を使うと、『2倍の場合が72、3倍の場合が108だから、36の倍数を使って、4倍の場合は144、5倍の場合は180というように計算できるのではないか?』という推測も出てくるでしょう。概算年数の計算という点では「間違い」とまでは言えませんが、72という概算数値を援用して36の倍数を用いて計算していくと、「元本の3倍」までは精度の高い計算ができますが、それ以上になると精度がかなり落ちていきます。例えば、4倍の場合(144)は「4倍:年数×利率(%)≒138.6」、5倍の場合(180)は「5倍:年数×利率(%)≒160.9」となりますので、乖離がだんだん大きくなってきます。

ちなみに、元本が10倍になる年数を求める時に72の法則を使うと「360」となり、年利4%では90年と計算されます。ところが、本来の簡便計算では「10倍:年数×利率(%)≒230.3」となりますから、実際は60年弱で10倍になります。60年と90年ではだいぶ結果が違ってきますので、もはや「72の法則」は通用しません。なお、上記(1)式を用いて10倍になる正確な年数を計算すると、約58.7年となります。


● 利率が上がってくると、『72の法則』が成り立たなくなる

72の法則が成り立たないもう一つのケースを検討します。先ほどの近似計算では、x2 以後の項を無視して計算しました。上記の表を見ると、利率(=x)が上昇して100%を超えるようになると、①「72の法則(簡便計算)」と②正確な計算結果の乖離幅が大きくなっていることが分かります。すなわち、高い利率になると近似計算(切捨計算)が成り立たず、結果として、『72の法則』の精度が落ちていくのです。

これは、利率が上がると先ほど無視した部分が、無視できないような(大きな)数値になってくるためです。





数式では分かり難いかもしれないので、グラフで説明します。
利率(x)が低い領域では、y=ln(x+1)y=xの2つのグラフがほとんど一緒であることは、上記のグラフで説明した通りです。ところが、下記のグラフで見るように、利率が高い領域では、y=ln(x+1)のグラフは、y=xのグラフと同じようなものと言えないのです。利率が上がると、近似計算(=72の法則)が成り立たないのはこれが理由です。




清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office