ホーソン実験とは、1927年から1932年にかけて、米国シカゴのウエスタン・エレクトリック社のホーソン工場で行われた一連の実験を意味します。この実験では、従業員の作業効率に及ぼす様々な要因についての実験が行われました。例えば、「照明実験」は、工場の照明(の明るさ)と作業効率(組立個数)の関係を調べることを目的とした実験でした。照明を明るくすれば作業効率は上がり、逆に暗くすれば効率は下がるだろうと仮定したのです。
しかし実際は、照明を明るくした場合も暗くした場合も、どちらの場合も従来よりも作業効率が向上するという矛盾した現象が観察されたのです。従業員(被験者)には、実験を行っているという事実だけが伝えられており、実験の目的は明かされていませんでした。そこで、照明の明るさに関係なく作業効率が向上したのは、実験に参加している従業員(被験者)が、「自分達は重要な実験に参加しており、注目されている」と考えたことが原因ではないか、考えられるようになりました。
このように、従業員が抱く「周囲から注目(期待)されているという意識」が生産性を高める効果のことを、一般にホーソン効果(Hawthorne effect)と呼びます。
2.人間関係論と科学的管理法
20世紀の初頭にフレデリック・テイラーによって提唱された「科学的管理法」では、人間を機械のように扱い、労働への動機付けは主に「金銭」であると考えました。
しかし、ホーソン工場で行われた一連の実験により、生産性に影響するのは、①職場での人間関係、②職場のインフォーマルグループやその規範、あるいは、③指導監督者のリーダーシップであるという仮説が導かれました。
ホーソン実験は、経営学や心理学等の社会科学に大きな影響を与えました。例えば、ホーソン実験に始まる「人間関係論」は、テイラーの「科学的管理法」とともに、経営学発展の重要な試金石となりました。現在でも、経営学や組織論の教科書には、ほぼ100%の確率でホーソン実験(効果)取り上げられているといっても過言ではありません。
3.統計的見地から見たホーソン実験(ホーソン効果)
ところが、近年になって、当初行われたホーソン実験の結果を疑問視する論文がいくつか公表されるようになりました。当時実際に行われた実験データに基づき、統計的な解析を加えた結果、ホーソン効果に関して、統計上有意な(意味のある)結果は、認められなかったと指摘しています。
例えば次のような問題点が指摘されています。
(1)実験データは5人の女性作業員と3名の代替要員の合計8名に過ぎないこと。
(2)生産性の変化の指標(平均値)自体、極めて小さいこと。
(3) コントロールグループを設定した対照実験が行われていないこと。
(2)生産性の変化の指標(平均値)自体、極めて小さいこと。
(3) コントロールグループを設定した対照実験が行われていないこと。
(1)については、そもそもサンプル数が非常に少なかったということです。
(3)のコントロールグループを設定した実験とは、例えば以下のような2つのグループを設定して行う実験です。
★ Aグループ(コントロールグループ)
☛ 実験に参加していることを知らせずに照明の明暗だけ調整する被験者グループ
★ Bグループ(ホーソン効果を検証したいグループ)
☛ 実験に参加していることを伝えたうえで、照明の明暗を調整する被験者グループ
AグループとBグループを観察した結果、Bグループの方の生産効率が高いことが統計上示されれば、ホーソン効果の存在が立証できることになります。
4.ホーソン効果は存在するのか?
上記のとおり、ホーソン工場の実験によって示された「ホーソン効果」は、かなり疑義があると言わざるを得ません。また、ホーソン実験で”分かった”とされる実験結果は、その後多くの学者達によって、様々な意味合いが付与されてきた(拡大解釈されてきた)と言えるのかもしれません。
但し、上記の結果をもって「ホーソン効果は存在しない。」とまでは言えません。周囲からの期待によりモチベーションがアップし、結果的に生産効率が上がるというのは、十分納得できる帰結です。ただ、ホーソン効果の存在を実証するためには、1920年代に行われたのと同じような実験を、何度か行う必要があるのかもしれません。
【参考文献】
Jones, Stephen R. G. (1992). "Was there a Hawthorne effect?".American Journal of Sociology 98 (3): 451–468.
清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office)