1.はじめに
「財務分析」や「コーポレート・ファイナンス」の書籍では、下記の(1)と(2)の関係式がしばしば登場します。
しかし、書籍の中では導出過程が記述されていないケースが多く、「意味が良く分からない」という声を時々耳にします。ということで、今回はこの式の導出過程を含めて、ROAやROEについても簡単に説明したいと思います。
2.ROAとROE
ROA(Return on Asset)は、総資産(総資本)事業利益率を意味します。ROA=事業利益(営業利益+受取利息・配当金)÷総資産(総資本)となります。ここで注意すべきは、総資本事業利益率における事業利益は、支払利息を控除する前の金額になるということです。
理由は、分母が「総資本=負債(他人資本)+(自己)資本」になっているからです。
企業は総資本(総資産)を使って利益を生み出しています。したがって、分母に対応する分子には、この総資本(総資産)が生み出す利益を対応させるというわけです。また、ROAの計算に用いる利益は通常、「税引前」利益となります。
一方、ROE(Return on Equity)は、自己資本利益率を意味します。ROEの場合、分子には当期純利益が来ます。この理由は、分母が自己資本であり、自己資本に対応させるべき利益は、支払利息を控除した当期純利益とするのが理論的だからです。なお、ROEの分子の当期純利益は税引前、税引後のいずれのケースもありますが、税金支払後の利益を株主に還元(配当)するという発想から、税引後利益を用いるケースが多くなります。
以上で、ROAとROEの簡単な説明を終えます。
3.記号の意味
まず、(1)式の関係からです。
は、税引前(Before Tax)のROEを意味します。i :負債利子率、D:負債、E:自己資本です。
(2)式の
は、税引後(After Tax)のROEを意味します。t :法人税率です。
4.式の導出
準備が整いましたので、(1)式の導出から始めましょう。
まず、次の5つ(①~⑤)の関係式を確認してください。簡便化のため、総資産(総資本)=Aと表記しています。
① ROA(総資産利益率)=事業利益÷総資産(A) ⇔ 事業利益=総資産(A)×ROA
② 総資産(A)=負債(D)+自己資本(E) ⇔ A=D+E
③ 支払利息額=負債利子率(i) × 負債(D) ⇔ 支払利息額 = i ×D
④ (税引前)当期純利益=事業利益-支払利息額
⇔ (税引前)当期純利益=事業利益-(i ×D)
⑤ (税引前)ROE[ 自己資本利益率 ]=(税引前)当期純利益÷自己資本(E)
■ まず、②式を①式に代入します。 事業利益=(D+E)× ROA ・・・ ①´
■ 次に①´ 式を④式に代入します。 (税引前)当期純利益=(D+E)× ROA-(i × D) ・・・④´
■ ④´式の両辺をEで割ります。
④´式の左辺が、(税引前)当期純利益÷自己資本(E)=(税引前)ROEになることに注意すると
ROE ={(D+E)× ROA-(i × D)} ÷ E
⇔ ROE =(ROA × E+(ROA-i )× D} ÷ E となります。
右辺をさらに整理していくと、ROE = ROA+(ROA-i )× D/Eとなり、(1)が得られました。
(2)の導出は簡単で、税金を考慮するだけです。簡略化のため、税引後当期純利益をAT、税引前当期純利益をBTと表記します。
⑥ 税引後当期純利益(AT)=当期純利益(BT)-法人税額
⑦ 法人税額 = 税引前当期純利益(BT)× 法人税率( t )
■ ⑦式を⑥式に代入すると、AT = BT-(BT × t)⇔ AT=BT(1-t)・・・⑥´ を得ます。
(1)式は税引前利益を表す式ですから、(1)式の両辺に(1-t)を乗じれば、税引後利益を表す(2)式になります。
5.ROAと負債利子率の関係
再び(1)式を考えます。
(1)式のROA(総資本事業利益率)とi (負債利子率)に着目します。
まず、ROA> i の場合を考えます。この場合(ROA-i)>0ですから、D/Eが大きいほどROEが大きくなります。
すなわち、負債利子率を上回る総資本利益率が実現できれば、負債(借入金)を(相対的に)増やすことで、ROEが増大するということになります。負債をテコに利益率が上昇するということから、財務レバレッジと呼ばれます。
逆に、ROA<i の場合には、(ROA-i)<0ですから、D/Eが大きいほど、ROEが小さくなります。
すなわち、負債利子率に満たない総資本事業利益率しか上げられなければ、負債の(相対的な)増加によってROEが低下するということです。
清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office)