2013年5月12日日曜日

教育資金の贈与

今さら申し上げるまでもないですが、教育には本当にお金がかかります。
ちなみに、幼稚園(3歳)から高校卒業までの15年間にどれ位の費用がかかるかご存知でしょうか?

文部科学省の『平成22年度子どもの学習費調査』によると、幼稚園から高校まですべて公立の場合の学習費総額は約500万円、一方、すべて私立の場合には、約1,700万円という調査結果が出ています。これに大学が加わると、教育費はさらに膨らみます。

ということで、今回は、平成25年度税制改正の中から、『教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置』について取り上げます。


1.制度の概要

平成25年度税制改正で、『教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置』が新設されました。祖父母や父母(直系尊属といいます。)が教育資金を孫や子へ一括贈与した場合、孫(子)1人当たり1,500万円まで贈与税が非課税とされました。非課税措置では、贈与する人数の制限はありません。例えば祖父母に孫が4人いるとすると、最大で6,000万円まで非課税で贈与することができます。

具体的なイメージは、以下の図表のとおりです。





 2.非課税措置の内容
  
(1)対象期間と対象額
  平成25年4月1日~平成27年12月31日までの間の供出額が対象です。

(2)贈与受ける者(受贈者)の条件
  30歳未満の個人に対する教育資金であることが条件です。

(3)供出(贈与)方法
  教育資金口座の開設等(※1)を行うことが必要です。

※1 「教育資金口座の開設等」とは、金融機関等との一定の契約に基づき、受贈者の直系尊属(祖父母など)から拠出された資金で受贈者の直系尊属(祖父母など)から①信託受益権を付与された場合、②書面による贈与により取得した金銭を銀行等に預入をした場合又は③書面による贈与により取得した金銭等で証券会社等で有価証券を購入した場合をいいます。

(4)非課税限度
  拠出額のうち1,500万円までの部分について、
  教育資金非課税申告書を(金融機関に)提出すると、贈与税が非課税となります。

(5)契約終了
  ①  受贈者が30歳に達したこと
  ② 受贈者が死亡したこと
  ③ 口座等の残高がゼロになり、かつ、教育資金口座契約終了の合意がなされたこと

  により、教育資金口座に係る契約は終了します。

6)贈与税が課される場合
(5)①又は③の理由で契約が終了した場合、非課税拠出額(1,500万円を限度 ※2)から教育資金支出額(学校等以外に支払う金銭については、500万円を限度 ※3)を控除した残額がある場合、その残額が契約終了日の属する年に贈与があった額とされます。

説明が少しわかりにくいですが、端的には上記の図表の    について贈与税が課されます。すなわち、その年の贈与税の課税価格の合計額が基礎控除額を超えるような場合、贈与税の申告期限までに贈与税の申告を行う必要があります。一方、    の部分が存在しなければ、すべて非課税となります。

※2 「非課税拠出額」とは、教育資金非課税申告書(又は追加教育資金非課税申告書)に本制度適用を受けるものとして記載された金額を合計した金額(1,500万円を限度)を意味します。

※3 「教育資金支出額」とは、金融機関等の営業所等において、教育資金として支払われた事実が領収書等により確認され、かつ、記録された金額を合計した金額をいいます。


3.補足説明

(1)教育資金の意味
  教育資金とは以下のようなものを意味します。

  ①  学校等(※4)に対して直接支払われる以下のような金銭
     (ⅰ)入学金、授業料、入園料、保育料、施設設備費又は入学(園)試験の検定料など
     (ⅱ)学用品の購入費や修学旅行費や学校給食費など学校等における教育に伴って
        必要な費用など

  ② 学校等以外(※5)対して直接支払われる金銭で社会通念上相当と認められるもの

   ● A.役務提供又は指導を行う者(学習塾や水泳教室など)に直接支払われるもの

    (ⅲ) 教育(学習塾、そろばんなど)に関する役務の提供の対価や施設の使用料など

    (ⅳ) スポーツ(水泳、野球など)又は文化芸術に関する活動(ピアノ、絵画など)
       その他教養の向上 のための活動に係る指導への対価など

    (ⅴ)(ⅲ)の役務の提供又は(ⅳ)の指導で使用する物品の購入に要する金銭

    ● B.上記A以外(物品の販売店など)に支払われるもの
    (ⅵ) ①-(ⅱ)に充てるための金銭であって、学校等が必要と認めたもの


※4 「学校等」とは、学校教育法で定められた幼稚園、小・中学校、高等学校、大学(院)、専修学校、 各種学校、一定の外国の教育施設、認定こども園又は保育所等などをいいます。

※5 学校等以外に支払う金銭について非課税措置が利用できる限度は500万円となります。

(2)教育資金口座からの払出し及び教育資金の支払
教育資金口座からの払出しや教育資金の支払を行った場合、その支払に充てた金銭に係る領収書などその支払の事実を証する書類等(原本)を、次の①又は②の出期限までに教育資金口座の開設等をした金融機関等の営業所等に提出する必要があります。

 ① 教育資金を支払った後、実際に支払った金額を教育資金口座から払い出す方法を教育資 金口座の払出方法として選択した場合
  ☛  領収書等に記載された支払年月日から1年を経過する日

 ② ①以外の方法を教育資金口座の払出方法として選択した場合
  ☛  領収書等に記載された支払年月日の属する年の翌年3月15日

上記①又は②の払出方法の選択は、受贈者が教育資金口座の開設等時に行います。


(3)外国の教育施設への支払
  国際化社会が進展する中、①外国の大学や大学院への留学、②両親の海外赴任に伴って外国で教育を受けるケースも考えられます。教育資金の非課税制度は、一定の外国の教育施設についても認められます。なお、渡航費や滞在費あるいは下宿費用は非課税対象になりませんが、学校の寮費など(教育に付随する費用として)学校に支払われたことが明らかなものは非課税対象となるようです。
 ちなみに、外国で受ける教育費用-例えば、欧米の大学以上の高等教育に係る費用-は大変高額です。そこで、この制度を利用して海外留学することも検討できるかもしれません(報道によると、日本の若い人達は、内向き志向と言われているようですので・・・。)

なお、「祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度」の詳細については、国税庁のHPに「パンフレット」や「Q&A」がまとめられておりますので、そちらをご覧ください。

また、教育資金口座の開設等の手続きについては、金融機関(銀行、信託銀行、証券会社)にお問い合わせ下さい。


今回は以上です。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office

2013年5月7日火曜日

事業承継税制の改正について


本日は、平成25年税制改正の中から、『事業承継税制』に関する改正ポイントを説明いたします。

1.事業承継税制とは何か?

事業承継税制とは、端的に言えば、非上場株式(自社株式)に課される税金(贈与税や相続税)の全部または一部を繰延べできる制度(=納税猶予制度)です。自社株式の相続や贈与時の時価は、予想以上に高くなるのが通常です。他方、自社株は流通性がほとんどありませんから、換金できない株式に高額な贈与税や相続税が課されると、事業承継に支障が出る可能性があります。こうした事態に対応して、一定の条件を満たす場合、中小企業の後継者が、現経営者から会社の株式を承継する際、相続税・贈与税が軽減(相続:80%分、贈与:100%分)される制度が事業承継税制(納税猶予制度)です。


2.制度適用のための一定の条件とは?

事業承継税制は、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(円滑化法)」を基礎とした制度です。円滑化法は、① 遺留分に関する民法の特例、② 事業承継時の金融支援措置、③ 事業承継税制の基本的枠組み を盛り込んだ事業承継円滑化に向けた総合的支援策の基礎となる法律ですが、③の事業承継税制が納税猶予制度に該当します。
すなわち、税法が円滑化法を借用して、円滑化法の一定の要件を満たす中小企業について、納税猶予の適用を受けることができるように制度化されているのです。

事業承継税制(納税猶予制度)の適用要件はかなり複雑ですので、ここで詳しく説明することはいたしませんが、ご興味のある方は、下記の中小企業庁のサイトで『最新版(平成25年度)の中小企業経営承継円滑化法申請マニュアル』をご覧ください。

☛ 中小企業庁:中小企業経営承継円滑化法 申請マニュアルについて

円滑化法について一点注意すべきなのは、この法律が「中小企業の雇用の維持・確保」を重視しているという点が挙げられます。すなわち、「中小企業の雇用確保 → 円滑な事業承継 → 贈与税・相続税の負担軽減 → 納税猶予」という流れが根底にあることに留意する必要があります。言い換えると、(後半の)「(経営者の)税負担軽減 → 納税猶予」という目的だけで、設定された法律ではなく、(円滑化法の)納税猶予が認められる「一定の条件」はかなり厳し目に設定されているということになります。

今回の改正では、この厳しい条件の一部が緩和されました。


3.改正点(要件緩和)

平成25年度税制改正で事業承継税制の適用要件が以下の通り緩和されました。

(1)事前確認の廃止:手続の簡素化(平成25年4月以後)
従来、制度利用の前に経済産業大臣の「事前確認」を受ける必要ありましたが、平成25年4月後は、事前確認を受けていなくても制度利用が可能になりました。

(2)親族外承継の対象化~親族以外にも拡大(平成27年1月以後)
現行では、後継者は現経営者の親族に限定されていますが、改正後は親族外承継も対象となります。

(3)雇用の8割維持要件の緩和(平成27年1月以後)
現行では、雇用の8割以上を「5年間毎年」(毎年度末)維持することが要件とされていますが、雇用の8割以上維持要件が「5年間平均」となります。例えば、現行は5年間で1回でも8割要件をクリアできないと納税猶予が打ち切りとなりましたが、改正後は、8割要件をクリアできない年があっても、5年間平均でクリアできればよいことになります。

(4)納税猶予打ち切りリスクの緩和(平成27年1月以後)
現行では、要件が満たせずに納税猶予が打ち切られた場合、納税猶予額に加え利子税(年2.1%)の支払いが必要です。平成27年1月以後は、①利子税率が引下げられる(2.1%→0.9%)とともに、②承継5年超で5年間の利子税が免除されることになりました。

また、事業の再出発にも配慮がなされました。現行は、相続・贈与から5年後以降は、後継者の死亡又は会社倒産により納税が免除されています。改正後は、民事再生、会社更生、中小企業再生支援協議会での事業再生の際にも、納税猶予額を再計算し、一部免除されることになります。

(5)役員退任要件の緩和:現経営者の退任要件を緩和(平成27年1月以後)
現行では、(贈与税の納税猶予の適用を受ける際)現経営者は、贈与時に役員を退任すること(いわば、「生前隠居」)が必要です。改正後は、贈与時の役員退任要件が代表者退任要件に緩和され、現経営者は(贈与後も引き続き)有給役員として残留することが可能となります。

(6)債務控除の計算方法の変更(平成27年1月以後)
現行では、猶予税額の計算で現経営者の個人債務や葬式費用を株式から控除するため、猶予税額が少なく算出されます。改正後は、現経営者の個人債務や葬式費用を株式以外の相続財産から控除することに変更されるので、その分、納税猶予額が増えることになります。

今回は以上です。


清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office