① 2つの店が直線上の中間点に隣接して出店するのが均衡であること ② この均衡は安定的であること(どちらの店も、別の場所に出店したいというインセンティブを持たないこと) |
今回は、このような出店(中心地に隣接出店)を消費者の観点から考えてみます。
■ 安定的な均衡(=中央立地) は 消費者にとって最も望ましい立地ではない
まず、「中心地の隣接出店」は消費者にとって望ましいものでしょうか。この点、直感的には「望ましくない」と思われるのではないでしょうか。
先の海水浴場のアイスクリーム屋の例で考えてみます。海水浴場の両端にいる人達にとって、ビーチの真ん中までわざわざアイスクリームを買いに行くのはかなり不便です。一方、中央付近にいる人達にとっては、どちらのアイスクリーム屋に行っても同じです。商品や価格は全く同じなので、2つの店が隣接している必要はないわけです。
したがって、消費者全体で見ると、2つのアイスクリーム屋が離れて立地している方が便利ということになります。
■ 消費者にとって望ましい立地
ここで、先の「直感」をもう少し厳密に検討してみます。A-Bの距離を1、消費者の移動コスト(足代)をtで表します。売っている品物と値段を同一とすると、違うのは消費者の移動コスト(足代)だけですから、この移動コストに絞って考えます。
赤の三角形の面積はX社へ、青の三角形はY社へ買いに行くコスト(足代)の合計となります。この例では2つの店が中央に位置しているので、色の違いはあまり関係ありません。消費者の限界移動コストをt、線分A-Bの長さを1とすると、消費者の移動コストの合計は、下の赤の三角形と青の三角形の面積合計となり、その面積はt/4と計算されます。
なお、消費者によって最適な立地に関する詳しい計算プロセスに興味のある方は、末尾の「数学的補足」を見ていただければと存じます。もっとも、わざわざ計算するまでもなく、最小コストが実現できる(三角形の面積合計が最も小さくなる)2店舗の立地場所は、上記のような位置になることが、直感的にも分かるかと思います。
■ 均衡点が安定的な均衡とは限らない
ところで、前回説明したとおり、上記のような消費者にとって望ましい均衡点は、安定的な均衡ではありません。X社,Y社のいずれか一方が他方に近づくことで、(近づいた方が)より多くの消費者を獲得できるからです。結局、安定的な均衡は、(X社、Y社ともに)中心点での隣接立地となります。
また、(X社とY社が同じだけの消費者を獲得する)均衡点はA-B上に無数に存在します。x+y=1(0<x<y<1)を満たすxとyの組み合わせは無数にあるからです。しかし、これらの均衡点も、x=y=1/2でない限り不安定な均衡点です。
結局、(X社,Y社という)当事者に任せている限り、消費者にとって望ましい立地が実現できないことになります。そこで、「消費者にとって望ましい立地を実現する政策が必要になる」という考えが生まれます。
このホテリングの議論の延長線上に、昨今注目を浴びている「空間経済学」の考え方があるような気もします。
■ 出店数が3つ以上の場合
上記は、出店数が2つの場合の均衡点でした。出店数が3つ以上の均衡点はどうなるでしょうか。実は、3店舗以上の場合、常に安定的な均衡が存在するとは限りません。ちなみに3つの場合、安定的な均衡点はありません。4つの場合は、("0-1"の線分上において)1/4と3/4の点に2つずつ立地するのが安定的な均衡となります。6店舗の場合、1/6,3/6(=1/2),5/6の3箇所に各2つずつ出店するのが安定的均衡となります。 すなわち、3つ以上の奇数店舗のケースについては、安定的な均衡は存在しないことになります(ご興味があれば、図を描いて試してみてください。)
今回は、ちょっとした頭の体操のような話題でした。
【数学的補足】
XとYがどのような位置に立地すると、三角形の面積が最小になるでしょうか。数学的にこれを知るためには、①から④の部分に分解して考えます。Xの位置をx、Yの位置をyと置き、0<x<y<1(xはyの左側に位置すると考える)
SC=g(x,y)とすると、x,yの2階偏微分はそれぞれプラスとなりますので、SCの最小値は、δg/δx=0, δg/δy=0を解くことで求まります。
δg/δx=0, δg/δy=0を解くと、x=1/4, y=3/4となり、SC=t/8と計算されます。すなわち、X社、Y社が中央に出店するケース(=t/4)の半分のコストになります。したがって、以下のようにXとYが立地することが、消費者にとっては最も望ましいことになります。
清水公認会計士事務所(Shimizu CPA Office)