2011年4月10日日曜日

概念フレームワーク(2)

前回から複数回にわたって、IFRSを理解する上で重要な概念フレームワーク(以下、フレームワーク)の内容を扱っています。今回はフレームワークの内容の1番目、財務諸表の目的です。なお、国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)が共同して、現在フレームワークの改訂作業を行っています。改定された部分(一部)が昨年公表されていますが、以下の説明は基本的に従来のフレームワーク(1989年)を前提にしています。



1.財務諸表の目的財務諸表の目的は、財務諸表の利用者が経済的意思決定(Economic Decisions)を行う際に有用な情報を提供することです。原文では以下のように書かれています。

The objective of financial statements is to provide information about the financial position, performance and changes in financial position of an entity that is useful to a wide range of users in making economic decisions.

前回も述べましたように、財務諸表の利用者(利害関係者)は多岐にわたるので、すべてのニーズを満たすことはできません。そこで、大半の利用者の要求を満たすであろう最大公約数的な情報提供を行います。この情報とは、経済的意思決定を行うための企業の財政状態、経営成績、財政状態の変動に関する情報となります。

財務諸表は経営者の受託責任(Stewardship of Management)や経営者の説明責任(Accountability of Management) の結果を示すものでもあります。例えば、企業が(1年間で)どれだけ儲かったのか、保有する資産を活用して効率的な経営を行ったのか、株主への還元策(配当等)は適切か、といった情報を提供する必要があるわけです。財務諸表は、こうした経営者の責任の遂行状況を評価する上でも重要な役割を果たします。経済的意思決定には、その企業への投資を継続するか否か、経営者を再任するか交代させるかといったものも含みます。


2.財政状態・経営成績及び財政状態の変動について

財務諸表の利用者が行う経済的な意思決定を行う上で最も基本的かつ重要な情報とは何でしょうか? それは(理論的には) 現金(≒利益)を生み出す力です。いつ、どれだけのキャッシュフローを生み出すか、そして、その可能性(確実性)はどの程度か、といったことが経済的意思決定には不可欠な情報となります。そして、財務諸表は、企業が現金をいつ、どれだけ生み出すのか、そしてその可能性は高いのか低いのかといった情報を提供する役割を担っているわけです。原文では以下のように書かれています。

The economic decisions that are taken by users of financial statements require an evaluation of the ability of an entity to generate cash and cash equivalents and of the timing and certainty of their generation.

こうした経済的意思決定を行うための財務情報は3つに分類されます。一つ目は企業の財政状態(Financial Position)に関する情報です。これは主に貸借対照表(Balance Sheet)あるいは財政状態計算書(Statement of Financial Position)によって提供されます。二番目は、経営成績(Performance)に関する情報で、これは主に損益計算書(Income Statement)あるいは包括利益計算書(Statement of Comprehensive Income)によって提供されます。三番目は、財政状態の変動(Changes in the Financial Position)に関する情報です。典型的には株主持分変動計算書(Statement of Changes in Equity)によって提供されます。なお、現在ではStatement of Cash Flows(キャッシュフロー計算書)が基本財務諸表の一つになっています。

重要なことは、これらの財務諸表は相互に関連しているということです。これらの財務諸表は単一目的のために利用されるものでなく、また、特定の利用者のすべてのニーズを満たすものでもありません。原文では以下のように書かれています。

The component parts of the financial statements interrelate because they reflect different aspects of the same transactions or other events. Although each statement provides information that is different from the others, none is likely to serve only a single purpose or provide all the information necessary for particular needs of users.

結局、一つの財務諸表だけを見て(企業の姿が)分かるというものではなく、これらの財務諸表の関連性を十分理解して、組み合わせて利用する必要があるということでしょうか。

また、財務諸表には、上記の財務諸表の他に、注記(Notes)や、補足明細表(Supplementary Schedules)が含まれます。

今回取り上げた財務諸表の目的は、昨年公表されたフレームワークでは大幅に書き換えられていますが、内容的には大幅には変わっていないと考えられます。改定後のフレームワークにおける財務報告の目的で重要な点は以下のとおりです。

 ① 財務諸表の利用者は、企業に資金を提供する投資家、貸付業者、債権者などの外部者であり、これらの利害関係者の経済的意思決定に有用な情報を提供することが財務報告の目的である。
 
 ② 上記の利害関係者は意思決定に際し、将来キャッシュフローの金額や発生時期、不確実性に関する情報を必要としている。

 ③ 財務報告(財務諸表)のかなりの部分は、会計数値の正確な表現というより、見積りや判断あるいはモデルに基づいている。フレームワークはこれらの基礎となる概念を確立する。


次回は、上記の財務諸表(Financail Statements)が扱う財務情報の質的特性と制約(Qualitative characteristics and Constraints)についてとりあげます。